背中のもの

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 間もなくやってきた路面電車は、自宅とは正反対の街中方面に向かうものだ。でも、今はそんな事を気にしている場合ではない。満席の路面電車に乗り込み、扉が閉じる寸前まで、あの男が追ってきていないかを確認していた。  ふうっと息を吐いて、手すりを握ると、なんだか変に安心した。 ゆっくりと動き出した路面電車は、次の停車場で更に飲み込み、街中へと向かう。サスペンションが緩いのか、時折ゴトンと強めの振動が足元に伝わる。その都度、周囲を見回して、足音もなく近づいてきたあの男がいないか確認するも、当たり前のように見当たらない。  …ひとまず良かった。
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