ネックレス

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ネックレス

 ここは、さまざまな動物たちが仲良く暮らしているメルヘン村です。夢と希望を乗せた和やかな春の風が、ふわりと香ります。  村の近くにある海には、桜が春の訪れを告げ、まるでやわらかいぼうしをかぶせたかのように、水面にあわいもも色のかげを映しています。カメのルネは、いろいろな花がさく春を楽しむために、海から陸に上がりました。  銀の砂浜をのっそり歩いて行くと、山のずっと向こうまで、満開の桜がさいているのが見えました。やわらかな日が光り、桜色に染まった村は美しく、静かで気持ちの良い朝をむかえています。  ルネは、野の花や土のにおいを乗せた風に導かれ、まるでふねに乗っているような感覚で、ゆらゆら山道を進みました。  さわやかな春の森をぬけると、白ぬりのアトリエが現れました。青いドアのまわりでは、草がもえています。  庭には、ガラス作家のシロヘビ・スピカがいました。スピカは、むらさきのフリージアをながめながら、画用紙を前に作品について考えをめぐらせています。 「おはようございます」  フリージアと向かい合っていたスピカが、声の主を探すように、顔を上げました。 「おはよう。いい朝だね」  スピカはおだやかにほほ笑みました。 「今日は何をかいているんですか?」 「新作のジュエリーのデザインだよ。フリージアのネックレスを作ろうと思っている」  スピカが特別にラフ画を見せてくれたので、ルネは喜んで画用紙をのぞきこみました。  かかれていたのは、シンプルなネックレスでした。ペンダントトップには、ちょうちょに似たフリージアが、ひかえめにさいています。  ルネがその絵をとても気にいってながめていると、スピカがアトリエから試作品を持ってきました。フリージアのネックレスとはまたちがった、ピンクがかった満月に、上品なきりの花がついたネックレスです。 「出来に納得できなくて捨てる予定だったジュエリーだけど、もし気にいったならあげるよ」 「失敗作だったんですか? こちらもとてもきれいですね」  思わず欲しがっていることを顔に出してしまったルネに、スピカは、つみ取ったばかりの花をかざるように、ネックレスをつけてあげました。ルネはなんだかおひめさまになった気分です。 「ありがとうございます」  ルネははにかんでお礼を言いました。  スピカは庭にある特等席にもどると、夢中で絵をかいていておなかが空いたからか、いつもより花のみつや果実のにおいを強く感じました。一度かくのをやめて、庭で順調に育っているいちごを選びます。 「良かったら、君もどうぞ」  深紅に熟れた大つぶのいちごが、ていねいに手入れされた花々のまわりで、ツヤツヤ光っています。ルネはえんりょしつつも、スピカにつられて、おいしそうないちごを数つぶ、頂くことにしました。  その後しばらくの間、スピカと作品作りについて、楽しくお話をしました。
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