2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
ネックレス
ここは、さまざまな動物たちが仲良く暮らしているメルヘン村です。夢と希望を乗せた和やかな春の風が、ふわりと香ります。
村の近くにある海には、桜が春の訪れを告げ、まるでやわらかいぼうしをかぶせたかのように、水面にあわいもも色のかげを映しています。カメのルネは、いろいろな花がさく春を楽しむために、海から陸に上がりました。
銀の砂浜をのっそり歩いて行くと、山のずっと向こうまで、満開の桜がさいているのが見えました。やわらかな日が光り、桜色に染まった村は美しく、静かで気持ちの良い朝をむかえています。
ルネは、野の花や土のにおいを乗せた風に導かれ、まるでふねに乗っているような感覚で、ゆらゆら山道を進みました。
さわやかな春の森をぬけると、白ぬりのアトリエが現れました。青いドアのまわりでは、草がもえています。
庭には、ガラス作家のシロヘビ・スピカがいました。スピカは、むらさきのフリージアをながめながら、画用紙を前に作品について考えをめぐらせています。
「おはようございます」
フリージアと向かい合っていたスピカが、声の主を探すように、顔を上げました。
「おはよう。いい朝だね」
スピカはおだやかにほほ笑みました。
「今日は何をかいているんですか?」
「新作のジュエリーのデザインだよ。フリージアのネックレスを作ろうと思っている」
スピカが特別にラフ画を見せてくれたので、ルネは喜んで画用紙をのぞきこみました。
かかれていたのは、シンプルなネックレスでした。ペンダントトップには、ちょうちょに似たフリージアが、ひかえめにさいています。
ルネがその絵をとても気にいってながめていると、スピカがアトリエから試作品を持ってきました。フリージアのネックレスとはまたちがった、ピンクがかった満月に、上品なきりの花がついたネックレスです。
「出来に納得できなくて捨てる予定だったジュエリーだけど、もし気にいったならあげるよ」
「失敗作だったんですか? こちらもとてもきれいですね」
思わず欲しがっていることを顔に出してしまったルネに、スピカは、つみ取ったばかりの花をかざるように、ネックレスをつけてあげました。ルネはなんだかおひめさまになった気分です。
「ありがとうございます」
ルネははにかんでお礼を言いました。
スピカは庭にある特等席にもどると、夢中で絵をかいていておなかが空いたからか、いつもより花のみつや果実のにおいを強く感じました。一度かくのをやめて、庭で順調に育っているいちごを選びます。
「良かったら、君もどうぞ」
深紅に熟れた大つぶのいちごが、ていねいに手入れされた花々のまわりで、ツヤツヤ光っています。ルネはえんりょしつつも、スピカにつられて、おいしそうないちごを数つぶ、頂くことにしました。
その後しばらくの間、スピカと作品作りについて、楽しくお話をしました。
最初のコメントを投稿しよう!