雪の日には氷は溶けない

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「俺が小さい頃にはさ、今日みたいに雪が降ってるときには、寒いのにわざわざみんなでかき氷を作ったんだよな」 部屋の真ん中に石油ストーブが置いてある以外には何もない殺風景な部屋の中で、男が淡々と話し始めた。懐かしい思い出をゆっくりと記憶の底から引っ張り出している表情は場違いにもどこか穏やかな表情をしているように見えた。 男の背中側にある窓からはたくさんの雪が降ってきている様子がよくわかる。雪の日だから、思い出がより鮮明に浮かんできているのかもしれない。 「まあ、バカだよな。この辺の地域では、不思議なことに雪が降った日に作った氷はまったく溶けないから、胃に入って、胃液で消化されるまでは食道を冷たい感触が流れ続けるから体が冷えちまってしょうがねえよ。 あれ、絶対に体に悪かったよなって、今なら思うけど、昔はテンション上がってたんだよ。氷は一瞬で精製されて面白いから、とにかく氷を作りたかったってのもあるし、あの冷たい感触が病みつきになるってのもある。平時では絶対に楽しめない喉越しだからな。 体に悪そうだってのに、雪の日専用かき氷なんてものを販売して、わざわざそのかき氷を遠路はるばる食べに来るやつまでいるしな。バカみてえな話だよな。見た目は普通のかき氷だからSNS映えするわけでもないのに、遠路はるばるやってきて、体に悪いかもしれねえものを食べるなんてよ」 男はそこまで言うと、一度窓の外を見てからため息をついた。
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