終章

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 ◆  翌年の春、陛下が天啓を受け、五家の神鎮に対する新たな抑止力が誕生した。  翼妃を筆頭とし、他の神鎮の政治を見張る役割の組織が生まれたのだ。その役割は神守(かみまもり)と名付けられた。これは権力の分散にも繋がった。  翼妃は火の神と風の神に力の全てを返上し、始祖の力のみで他家の政治を見張った。神鎮の始祖の生まれ変わりであり、神鎮の権利を打ち消す力があり、政治に関する教養もあり、更には悪神の一柱を殺した過去がある翼妃に逆らう者など誰もいなかった。  おかげで風属性の神鎮たちの悪政も改善し、陸奥國の民は神守に感謝した。  たまに薩摩に赴けば、炎寿がやけに褒めてくれるようになった。炎寿は、このまま神鎮たちの立場ばかりが強くなれば、民たちの不満が溜まり続け、何れどこかで勢力が崩壊すると考えていたようだ。その状態をより良いものに変えることは、炎寿の夢でもあったらしい。  今日も雷神を祀る飛神家に視察へ向かう予定だ。黒龍を倒すため、無関係であるにも拘らず特に貢献してくれた春雷、嵐鷲には廻神家から予算の半分を使って毎年高級な捧げ物を送っている。そのおかげもあってか、その二家とはとても友好的な関係を築けている。  出かける準備をしてから少し時間があったので縁側に座っていると、当主として忙しいはずの柊水が翼妃の方へやってきた。 「翼妃ちゃーん。今日くらい一緒に過ごさない?」 「忙しい。柊水だって忙しいでしょ」 「翼妃ちゃんとゆっくりする時間最近全然ないじゃん。だからこそ作らないとだめじゃない?」 「夜は一緒にいるでしょう」 「それだけじゃ足りないんだって」  柊水が拗ねたようにずいっと顔を近付けてくる。そして、翼妃の隣にいる存在にふと気付いたように視線を落とした。 「何それ。……雀?」  翼妃の手元にいるのは、二匹の雀だ。翼妃があげた餌を美味しそうに啄んでいる。 「この子たち、最近よくここへ来るようになったの」 「ふーん。仲良くするのも程々にね。翼妃ちゃんに変なものうつったら困る」 「またそうやって……」 「翼妃ちゃんを心配してるんだよ。鳥から人にうつる病気もあるからね」  それは翼妃も知っているので、触った後はきちんと手を洗っている。余計なお世話だという目で柊水を見返すと、柊水はくすくすと笑って肩を揺らした。  そうこうしているうちに、お腹いっぱいになったらしい雀たちが仲良く空へ向かって飛んでいった。翼妃はその様子を眺めながら、太陽の眩しさに目を細める。 「翼妃ちゃんは鳥が好きだね」 「うん。翼を持っていて、どこへでも行ける自由さがあるから」 (今は私も、同じようなものかも)  改めてそう感じた翼妃は、柊水の方に向き直る。 「今日は忙しくて難しいけれど、今週末は一緒にどこかへ行こうか。今は私も、どこにでも行けるし」 「え? ほんと? どこ行きたい? どこでも連れてってあげるよ」 「じゃあ、空の上とか」 「空の上? うーん、嵐鷲様のお力をお借りするしかないなぁ」 「白龍に乗せてってもらうとか」 「えー。あいつ? それ、僕がやなんだけど」  笑い合いながら、縁側を後にした。
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