二千年後の初恋

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 私は所謂お宅とか腐女子と呼ばれる。  日々ページをめくっては溜め息をつく。  本の中の人物に恋をする十七歳になる乙女である。 「あ〜〜また溜め息ついてるよ綺羅羅(キララ)」 「だって、ガレリアがさ」 「また小説の話?」  ガレリアとは私が愛読している小説の中に出てくる主人公の一人である。彼は人を愛することを忘れたエルフ。  端正な顔立ちで、睫毛が長く、いつも影を落とした瞳をしている。勇者パーティーの一人で賢者で有り、そして年長者だ。  しかし長寿のエルフである彼は、パーティーの中で一番見た目が若い。あくまで物語の中での話なのだが、彼は現在九百歳である。  彼の出身はアルグレナと言う物語の世界の北に位置しており、氷と雪の世界の王国クリスタルガイアで第四王子として産まれた。正妃の子供ではなく、国王が正妃が妊娠中に下女に手を出し、身籠って生まれたのが彼で正式な継承者ではない。  第四王子とは言ったが貴族の血を引いて居なかった彼は、皇族争いには巻き込まれなかったものの、第二王子が跡を継いだ後、追放されることとなる。  追放後彼は生きていく為に、冒険者となる事を決意。  家族からの追放だけなら彼の心は氷に閉じ込められる事はなかったかもしれない。先代の国王の瞳が光を失った後、彼の実の母エクレア・ソノリスは姦通罪で斬首の刑に処された。  正妃の妊娠中に国王を誘惑したと言う罪に問われたのだ。実際は王の欲望のままに弄ばれたのは彼女の方で、本当なら犯罪者は彼の父親である国王である。しかしその様な都合の良い法律など存在しない。  冒険の最中その訃報を受けた彼、その日から愛する事に関連したものが缺落していった。光輝くサファイヤの瞳もこの日を持って失われた。  ガレリア・ソノリス。  賢者であり、絶対零度の異名を持つ。  何で有ろうと魔族や悪党には一切の情を許さない。  命乞いをしようとも凍てつくような眼差しで相手を氷の世界へと誘う。  何人たりとも溶かす事の出来ない、絶対堅牢の氷の牢獄。 「命乞いをするなら、最初からしなければいい」  ガレリアが相手を葬るとき、必ず呟く台詞だ。  読者の私だから分かる。  この本の世界の人々は彼が冷酷な人間なのだと思い込んでいるが、実際はそうじゃない。ずっとずっと彼等の物語を読んでいるから、本当の彼がどんな人物なのか見えてくる。  彼はエクスターナルアイスゼロを放つ時、いつも泣いている。 「ガレリアの何処がいいの、この男冷酷じゃん」 「美園には分からないよ」  そう、読者の中で私だけが彼の事を知っている。  私が私だけが彼を救えるんだ。  実際のところ読者の中で彼は堂々のワーストワンに耀いている。  この物語はすでに勇者パーティーが結成され、魔王軍との戦闘から始まる。その一人として彼は登場するのだ。  第三章の王都の帰還が終わると回想シーンとしての閑話があるのだが、そこでガレリアの生い立ち等が語られる。彼はエルフであり、冒険者である。彼が十五になる頃、国より追放され三百歳を過ぎた頃、とあるダンジョンの無限回廊へと嵌まってしまう。  そこで彼は自分の才能に自惚れていたことを知る。そしてこれは自分の運命なのだと受け入れると、そっと目を閉じ、ただただダンジョンの一部として生きる事を決める。  エルフは魔族と同じで、人間の様な食事を必要としない。幸いそのダンジョンの中はマナで満ちており、生き永らえる事が出来た。そして八百九十七歳のその日、勇者シルフィローゼと出逢うこととなる。彼女の必死の説得に心を動かされ、共に魔王討伐の旅への参加を決意する。  私はこのシーンを読み、彼の事が堪らなく好きになった。  何百年と石像の如く動かぬ彼が、彼女を見上げると立ち上がり、その際に一度だけ昔の青く光る宝石の眼差しを見せる描写があり、その挿絵を見て心が熱くなるのを感じた。 『何であんなのが勇者パーティーにいるのか?』 『悪党役として描けば良かったのに』 『どうして彼は魔族のパームレイスを殺してしまったのか?』  などなど彼は散々に不評を書かれている。  因みにパームレイスとは勇者パーティーの剣士と一騎討ちをし、剣士であるガインと戦闘の後打ち解け合うのだが、ガレリアは相手は魔族だから危険だと有無を言わさず、彼を永久凍土へと閉じ込めてしまう。  私には分かる。なぜ彼が魔剣騎士のパームレイスを凍らせたのかを。一度寝返った者は、また何処かで寝返る可能性が有り、それは勇者シルフィローゼの命を危険に晒すことに繋がる。それを阻止するため、敢えて彼は悪役を買ったのだ。  そして何故彼がパームレイスを葬る事を決意したのか、それが分かるような伏線のシーンがある。とある小さな村の戦闘時、彼は彼が子供を見捨てているのを目撃している。ガレリアには愛情が無くとも正義の心が有り、簡単に命を粗末にするパームレイスを許す事が出来なかったのだろう。  ……例え、その子供がもう助からない状態だとしても。その場で見捨てる様な魔族を許せなかったのだと思う。  因みに彼が駆けつけた時には、その男の子は息を引き取っていた。  そこの記述について彼を殺す時に触れた訳では無いし、作者もそれについて見解を述べているわけではない。  けれど、私はそう思うのだ。 「で、私に何の用事?」 「あっ、そうだ。そうだよ、スッカリ忘れてた。今日四葉大学の人と合コン有るんだけどさ、行かない?」 「行かない」 「でた、綺羅羅のソッコー」 「だってリア充は面倒くさいもん」 「いや、美穂子が言ってたけど、イケメンばっかりだって」 「興味ない」 「ガレリアさんっぽい人も居るかもよ」 「えっ!?」  彼みたいな人が来るかもと聞いて、一瞬心が動揺した。でも、それはスグにあるはずがないと考えを修正した。 「有り得ないから……」 「えっ?」 「ガレリア……彼は宝石のような青色の瞳をしているのよ。日本人にそんな人居るわけがないじゃない」 「いや、瞳の色とかそんなんじゃなくってさ、雰囲気とかそういう人って居たりするじゃん」 「雰囲気ね〜〜でも彼じゃないし」 「はいはい、綺羅羅は不参加ね」  そう言うと諦めたのか、友人は教室を出て行った。  暫くすると窓の外からは軽快な金属音、またホイッスルの音や掛け声が聞こえ始めた。  屋上の方からは歌声やパーラララ、ラララララーと繰り返す金管楽器の音色と青春の音色が響く中、私は一人静かに教室で本を読むのに没頭していた。  もちろん読んでいるのはアルグレナ戦記だ。  昨日最新巻が出たので駅前の本屋でソッコー買った。  昨日家に帰ってスグに読んでも良かったのだが、ファンで有る私はしっかり復習をしてから、この最新の章へ挑む事にしたのだ。 「そんな……」  著者に裏切られた気持ちだった。  最新の小説はネットのサイトと連動してる事もあり、ある程度読者の傾向を見て書き直されるとされる。今までこの小説の作者は読者の声を聴かずに、自分が作成したプロットの中でうまく展開し物語を膨らませている感じだった。  何故ならば、前書きに良くその事について触れて居たからだ。しかし、今回のこの本には前書きが存在していなかった。 「何で、どうしてよ……」  彼がこのままだと死んでしまう。  幾ら彼自身が選択したからと言って、手負いのままの彼が千の軍勢に勝てる訳が無い。  「作者はどうかしてるよ!?」  突然グラグラと揺れる。 (何っ? 地震!?)  教室が揺れている。  でも……何かおかしい。  辺りを見回す、揺れているのに机も、教室のドアも動いていない。  こんなに激しく揺れているはずなのに。  !?   音が聴こえない。  私の鼓膜に何も伝わらなくなる。  外の掛け声や、白球を打ち込む音、ブラスバンドの音色も、発声練習をする屋上にいる演劇部の子達の声すら聴こえない。  何も……。 (えっ)  目の前が真っ暗となる。  ……何も見えない。  ドサッ 「そっか……地震じゃなくって、私のほうだったんだ」  前日に夜更かしをしてまで、復習と称して今までの話を読んだのが祟ったのか、急に具合が悪くなり床へと倒れ込んだ。  前回は同じ様に夜更かしをしても問題無かったのにな……。 「これじゃあ、せっかくの……新巻が……読めないじゃん」  そして私は誰かに声を掛けられるまで、微睡みの奥深くへと落ちて行った。  …………………… 「おいっ、お前、しっかりしろ!? 大丈夫か?」  誰っ?  誰か私を呼んでいるような気が……。 「おい、何故こんなところで倒れているのだ人間の女!?」 (人間の女?) (しかも、なんか聞いたことがあるような声) 「ふぇっ、ジュル」  はっ、私は驚いて眼を開いた。  まず視界に映し出されたのは、砂利と草花。  声の聴こえる方へ顔を向けると、そこには青い瞳の男が私を見ていた。  ガバッ!?  私は急いで立ち上がる。 「おいっ、急に動いて大丈夫なのか?」 「嘘っ……」  私の目の前に彼が立って居る。  本の中の人であるガレリアが。 「嘘とはなんだ?」 「いえ、こっちの話ですガレリアさん」 「女、何故私の名前を知っている!?」 「あっ……それは……」  しまった、やってしまった。  まだお互いの自己紹介もしていないのに、名前を言ってしまった。  でも、こんなありもしない状況、これは多分夢……だから大丈夫だよね。  だって、彼の声は私が小説を読む時に勝手に思い描いていた声と同じなんだもん。 「お前はまさかっ、誰かの手の者か」  あれれ?  夢だけど、これってちょっとヤバめな状況?  どうしよう……彼、剣を構えてるし。  蒼瞑の剣、ブルーメディエーション。 (ああ、でもカッコイイ!? 彼になら斬られてもいいかも) (なんという自虐的な私、でも……)  私は思わず瞳を閉じる。 「おい、お前。なんなんだ二ヘラと口角を上げたまま眼を閉じるとは、気持ち悪い奴だ」 「あっ、いや……」 「ふんっ、殺すのもバカバカしい」  キンッ  そう言うと彼は剣を鞘に納めた。 「えっ、私を斬らないんですか?」 「ただの変態なら斬る意味もない。自ら死を望むのなら、誰かに命令された刺客でも無いだろうからな。それよりだ、何故お前は私の名前を知っているのだ」 「それは貴方が有名な方だからです」 「有名?」 「ええ、勇者パーティの一人じゃないですか」 「勇者パーティ?」 (あれ? 違った?) (ってことはないよね) 「いや、勇者シルフィローゼさんとか、剣士のガインさんに」 「ああそのことか、あれは凡そ百年前の話だ」 「ひゃっ、百年前!?」 「なんだ、突然急に大きな声を出して、おかしな奴だ」  夢なんだろうから仕方が無いと思っていたが、まさか百年後の世界に来ていたとは。  ……というこは、当然もう勇者の人達は彼以外亡くなってるって事だよね。  もうこの世界に魔王もいないってこと? 「あのぉ~~ガレリアさん。つかぬことをお聞きしても宜しいですか?」 「なんだ?」 「もう魔王も滅んだんですか?」 「魔王? またおかしなことを。魔王はシルフィローゼが止めを刺した。そして過去数十年間は平和が続いた」 「過去? えっ、じゃあ今は?」 「邪悪な者は混沌から生まれ出流。滅びたと思われた魔族が此処最近顔を表している。私はシルフィローゼの遺志を継ぎ、魔族と戦いながら次の勇者を探す旅をしていたところだ、そんな旅の途中にお前と出逢ったと言うわけだ」 「次の勇者ですか」 「ああ、そういうわけだ。だから私は忙しい、それじゃあ」 「あっ……あのぉ……」 「なんだ?」 「良ければ次の行き先まで同行させていただけませんか?」  彼は私を値踏みするように見ると、『分かった、いいだろう』と言い、なんとか次の町への同行を許された。  制服姿で無防備の私にきっと同情してくれたのだと思う。  私は一人生きてく為に冒険者となることに決めたのだが、その際に適正鑑定が必要となり教会へ行くこととなった。 「こっ、これは!?」 「……信じられん」 「どっ、どうしたのガレリアさん」  驚いた顔をした彼の顔には、少し笑みがこぼれていた。  そして徐に空間魔法から剣を取り出すと、私にそれを差し出した。 「これって……」 「聖剣だ……お前が次のシルフィローゼだ」 「私がシルフィローゼ?」 「そうだ、そう言えば名前を聞いていなかったな」 「私の名前は綺羅羅」 「綺羅羅か、ななかいい名前だ。さあ、受け取れ!?」  聖剣を受け取った私は、その日を境に師匠と弟子の関係となった。  彼に徹底的に剣術を叩きこまれた。 「ちょっ、ちょっと待ってガレリアさん……死んじゃうぅううう」 「この位で根を上げるな。アイツは決してどんな時も根を上げなかったぞ」 「うぅ……それは彼女が既に勇者になった後に出逢ったからでしょ」 「どうしてお前がそれを知っている?」 (やばっ……また口が滑った……)  どうするどうする。  あわわわっ。 「せっ、聖剣が話し掛けて来るの」 「聖剣が? だと?」  やっぱ、嘘くさいかな(汗) 「そうか……」  あれれ? なんか納得してくれたっぽい。 「矢張りお前は勇者なのだなフッ」  ………? 「生前のアイツもそうだった」  そう言うと彼は少し遠くを見詰めて語り出した。  私の知らない物語の続きを……。  ◇◇◇◇◇ 「おいおい、待ってくれよ」 「情けないわねガイン、そんなんじゃ魔王の四天王に勝てないわよ」 「はぁっ? シルフィ―お前なぁ~~」 「ハハハフフフ」 「何がおかしいんだよガレリア」 「いやっ、服じゅうに虫が付いていますよガイン」 「えっ!? 取ってくれジオンの爺さん。俺虫が苦手なんだ」 「いや、これは虫じゃないぞ、これはオナモミという植物じゃわい」 「フハッ、フハハハハハ」 「くっのぉ~~悪戯ずきのガリーめ」 「ねえ、みんな静かにして、もうすぐだって」 「もうすぐだって?」 「うん、聖剣のアッシュがそう言ってる」  ◇◇◇◇◇  その話をする時の彼はまるで別人だった。  とても楽しそうに見えたのだ。  でも、青い瞳が揺らめいていたので、辛くもあるのだろう。  彼の語る仲間達はもうこの世にいない。 「彼女も私と同じ様に聖剣の声が聴こえてたんですね」 「そうだ」 (聖剣の声か……本当は聴こえないけど) 「私は仲間から色んなものを貰った。お陰で瞳に光も取り戻せた」  そう、何より私がびっくりした事は、彼の瞳の色だった。  私が読んでいた物語では、彼の瞳の色は暗いままだった。  でも、今の彼の眼は宝石もそうだけど、澄んだ空色に輝いていた。  恐らく魔王との戦いの中、素敵な仲間と出逢い、彼は人を信じる心を取り戻したのだろう。    ボンッ  ばっちり見過ぎた~~恥ずかしい~~。 「どうした、顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」 「いやっ、熱は……」 (ちょっ、額と額って反則でしょうぅうううう) 「ぬっはぁああああああああああああああ」 「なっ、なんだ、どうしたと言うんだ綺羅羅、矢張り何処かおかしいのか?」  私はパニックのあまり彼から距離を取った。  ズザザザザー 「なぜ私に剣を構える綺羅羅?」 「ふーっ、ふーっ、ふーっ」  私の心臓はバックンバックンと波打っている。  耳元にまでその音が聴こえて来て大変だ。 「なっ、私としたことが……そういうことか」  どうやら彼もやってしまったことについて気が付いたらしい。 「えっ、ちょっ師匠!?」  カランカラン  私は剣を投げ捨て、慌てて彼の元へ走って行った。 「状況をわきまえず不埒な行動をした俺への戒めだ」  ガンガンガンガン 「だからって、柱に頭を打ち付けることないのに~~血が、血が出てるよぉ~~」  そんな不思議な出逢いをした私達、勇者の力に覚醒すると町での修行を止め、本格的に仲間を探す旅に出る。  そして………。 「綺羅羅がやりやがった!?」 「流石私達の勇者だけありますね」 「私だって頑張りましたですわっ、ふん」 「ガレリア、私やったよ」 「ああ」  魔王討伐の命を受けてから五年後、私達は再び平和を取り戻すことに成功した。ちょうど彼が千歳を迎える年だった。 「これでこのパーティーも解散となると寂しくなるぞいのぉ~~」 「そっかぁ~~俺っちはまた剣の修行でもするはさ、魔族は滅びても相変わらず魔物はいるからな。ドラゴンキラーにでもなってやるぜ」 「じゃあ、私もまだ行った事ない場所へ旅立とうかしらですわ」  そう、私はそんなことを考えもしなかった。  皆と別れが来ると言う事を。  剣士オウガ、ガインの孫で気性が荒い。剣の腕は確かでミスリルの盾も一刀両断してしまうほどの剛剣使い。  聖者アル、とても律儀で謙虚で控えめな聖職者。大人しくみえるが、邪悪な者に対しての対応は鬼そのもの。  魔法使いジョアンナ、競争心が強くやたらと勝負を挑んでくる。だけどここぞって時に頼りになるお姉さん。 「ガレリア……」 「ん……なんだ?」 「魔王の戦が終わったじゃない。そうすると私達もパーティーは解散……なんだよね?」 「ああ、そうだな」  やっぱり、それだけの関係で終わるんだ。  皮肉な事に魔王が居たから、私は彼に出逢えた。  でも、彼はそうじゃない………。  私じゃなくって勇者を探して居ただけなのだ。  私がもし勇者の素質が無かったのなら、きっともっと昔にこの関係は終っていたに違いない。  たったの五年間だったけど……この世界の神様に感謝しなくっちゃ。 「ありがとな綺羅羅」 「あっ……うん……」 「じゃあ、行くとするか」 「そっ……だね……」  何だろう?   何か此処で本当にお別れのような気がする。  魔王を倒す目的を果たしたから、きっと元の世界に帰ることになるんだよね。 「おい、その光は……どうしたんだ綺羅羅!?」  やっぱり、そうなるよね。  さよなら、お別れだねガレリア……。 「おい、まだ私はお前に……」  教室で倒れているところを、その日のうちに保護された。  特に身体には異常は見られなかったが、念のため一週間ほど入院となった。 「五年の月日ってなんだったんだろう。結局夢落ちじゃん……」  まだ定期的に通院する必要があるとのことだが、私は無事退院すると学校へ復帰することとなる。 「あっ、綺羅羅お帰り~~」 「うん、ただいま美穂子」 「それよりめっちゃいいタイミングで帰って来たね」 「えっ、何が?」  帰って来たか……本当は戻りたくなかった。  でも、あっちの世界に居ても、どのみちお別れだったろうし。 「今日転校生が来るんだって、しかも海外から!?」 「帰国子女ってこと?」 「う~~ん、それはどうだろう。そこまで私も分かんない」  ガラガラ 「うん、なんだ騒がしいな。もう知ってる奴も居るってことか」 「ええ~~静粛に、転校生を紹介する。お父様の都合でイギリスから急にこちらへ転入が決まった」  ……まさか、 「アルフレッド君、入って来なさい」 (違った)  もしかしたらと一瞬期待したが、よくよく考えればそんな事は有り得るわけもなく。小説の中の人間が現実の世界に出てくる事なんて、それこそ小説の物語か漫画の世界の作り話だけだ。  変に期待したせいなのか、名前を聴いた後私は項垂れた。 「私の名前はアルフレッドです。皆さん宜しくお願いします」  彼が自己紹介すると、教室中で他の女子達の黄色声が響き渡る。 「こらっ、お前達静かにしなさい。他の教室が迷惑だろ」  ああ、外人のイケメンさんが来たんだろうな。  私には関係無いけど、リア充死ね!? 「ねえねえ、綺羅羅、綺羅羅」 「何ようっさいな美穂子。何をあなたまで目を輝かせてんのよぉ~~」  机のすぐ後ろの美穂子に私は振りむく。 「だってホラ、瞳がすっごく綺麗だよ彼、まるでサファイアみたい」  えっ!?  まるでサファイアみたい  まるでサファイアみたい  まるでサファイアみたい  まるでサファイアみたい  まるでサファイアみたい  私は慌てて黒板のほうに目を向けた。  まさか、ガレリア……違った。  雰囲気は彼の様な感じがする。でも耳は尖っていない。  それに外国人だから、彫が深くて似ているように見えるだけだろう。  そう、きっとそうに違いない。  だって、もし本当にそうなら、パターン的に私の隣の席が空いていなければおかしい。 「じゃあ、アルフレッド君は取り敢えず、あそこの空いている席に座って」 「はい、分かりました」  そう、そんなことは起こるわけがないのだ。  今の私はある意味、シュールレアリスム!?  そう、超現実主義。 「さて、アルフレッド君も座ったし、早速始めるか」  始める?  何を? 「やった~~、待ってました」 「「「「せ~き~がえ、せ~き~がえ、せ~き~がえ」」」」 「煩いぞお前達、中止にしてもいいんだぞ」    えっ……これって…… 「よろしく綺羅羅さん」 「はあ………」  どういう事!?  ファンタジー続いてた?    いやっ、まさかまさか。  まさかね〜〜(汗) 「おっ、そうだ綺羅羅。彼はまだ教科書とか用意出来ていないから、見せてやってくれ」 「はあぁ……」  いやいや待て私、なんだこれ、なんで心臓ドクドク言ってんのよ。  ガレリア一筋だろ、これじゃあ他の教室のキャッキャッ、キャッキャッ言ってる子らと変わらないじゃない。てか浮気じゃないか。  ん?  なんか、ノートに書いてるけどなんだろう?  ………そこにはこう書かれていた。  やっと、君を見つけた綺羅羅。  あれから更に千年もかかるだなんて思いもしなかった。  僕の初恋の相手は君しかいない。  ガレリア・ソノリスa6941abb-6bbf-4e4e-9520-10f0697b575b   私は思わず顔を上げた!?  そこには穏やかに微笑む彼がそこにいた……。
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