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4.恋の瞬間
「ていうか、なにやってんの」
そう言いながらも、枝先を見れば白い紙切れが引っかかっている。
「アレ? 取ろうとした?」
訊けば返事がない。
「取ってあげようか?」
「いい!! いいから!」
その激しい拒否が肯定。手を伸ばそうとすると、また彼女が動き枝が揺れ叫び声がひびく。
どうやら、先にその紙を取ればいつかは落ちるのは明白。というか、いずれ落ちるんじゃないかなと思う。
だって、運動神経はよくなさそう。
でもなんで登れたんだか。
「わかったっスよ。というわけで、ハイ」
手を広げれば、彼女はいぶかし気な顔。それに吹き出すのをこらえて、蓮は手を広げ続ける。
「こんなこと、めったにしないよ」
「まさか、降りて来いって言うの!?」
「だいじょうーぶ。受け止めるから」
「むり、むりむりむり!」
「でも、そのうち落ちるよ」
手がプルプルしてる、猫が木から降りれなくなって鳴いてるって聞いたことはあるけど見たことはない。でも、そんな小動物よりかわいいんじゃないかって思う。
「だって! 無理」
「無理じゃないって」
目測で高さは三百メートルくらい。たぶんゴールの高さと同じくらい。ならば平気だろうと思った。
「私、……おもいよ」
ぷっと吹き出しそう。その言い方もカワイイ。
「ちょ、笑わないで!!」
彼女が叫んだ途端に、枝が揺れる。そして滑ったのか手が外れる。
その瞬間はスローモーションのようだった。重くはなかった、ぽすんと腕の中に納まった。
(あ、いい感じ)
まるで、ボールが腕の中に落ちてきた感じだった。来るべきしてきた、そんな予感に胸が高鳴る。そしてぎゅっとつぶられていた目が開いた。
その瞬間――恋に落ちた。
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