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26 回帰
残念だがこれからはない。
皆が言葉の意味がわからずもう1度聞く。
「ん? どういうこと? リコちゃん?」
「これからはない。私はここで別れを告げる」
「何言ってんだ…」
勝利の喜びが一転、別れの予感が急激に場の空気を変えた。
カイル以外が言葉の意味をはき違えていた。
「真層界に戻らなきゃいけないってことだろ? それだったらまた遊びに来れば…」
「違う。私は魔王の責務を果たさなければならない」
「責務って…コアを守ることじゃないにゃ? それなら今…」
「そう、守ることだ。でも成り損ないを倒すこととはまた違う。今コアは傷つきとても弱っている。このまま放っておくと、またがむしゃらに何かを生もうとして悲惨な結果を招きかねない。今もまだ私にはコアの苦しむ声が聞こえる」
ハーキスが「これでいいのか?」とでも言いたげな視線をカイルに投げた。
だがカイルの表情は穏やかだった。
「隊長も何か言ってくださいよ…だって隊長、あんなにリコちゃんのこと大事にして…」
「リコは大事だが俺がそれを止めることはできない。俺もコアの守護者の1人。優先すべきものくらい弁えている。この不安定な状態を1秒と看過することは出来ない」
「でも、でも探せば何か方法あるんじゃないですか? なんか沢山魔力を注ぐとか、魔法具を使ってみるとか…あんな王子のせいでこんなことってあんまりです!」
「フィル、何かあるのならリコの前の魔王もコアに身を投じたりしない。魔王も勇者もコアを守り、管理し、その体をコアに還す。そういう役割なんだ。あのバカ王子の愚行は腹立つが、元々コアは弱まっていた。時期が早まっただけだ」
「そんな…」
「みんな、ありがとう。死ぬのとは少し意味が違う。私はある意味世界の一部になるのだ。それはとても光栄なことなのではないかとそう思う。だから別れは言わない。皆の命をコアと共にきっと感じることが出来ると思うから。でも、達者でな。特にカイル、お前は少し飲みすぎだ。体は人間なんだ。もう少し労われ」
「まあ気が向いたらな」
リコがいい加減な返事をするカイルをしばらく見つめた。
ふっと笑ってから「汚い髭面だな」と言い、くるりと背を向けコアに歩き出した。
手前で止まると、後ろを向いたまま言葉を続けた。
「ああそうだ。カイル、いやリシュナーク。そのかつての記憶で真層界の者を導いてやってくれないか。私は、なんの、準備も、出来なかった、から……」
語尾が震えていた。
いくら役目とは言え、いくら必要な事とは言え、後ろ髪を引かれないわけない。
せっかく孤独ではないとわかったのに、コアに回帰すればまた1人になってしまうようで怖かった。
いくら綺麗ごとを繕ったって、彼女の根底にある孤独感は正直だった。
でも歩みは止めない。
カイルの言う通り、1秒だって看過出来る状態じゃない。
カイル。
再会して約半年。
誰かにこんなに心を満たしてもらえたことはなかった。
150年のうちの半年。この半年は私にとって永遠で、尊いもの。
出来ればもう1度その腕の中に納まってみたかったが、そんなことすれば決心が鈍ってしまうだろう。
もう振り返ることも許されない。
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