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血河は脳裡に浮かぶ残骸の姿を打ち消して、落ち着いた口調で続ける。
「明日からは俺も調査をする。が、工房にも顔を出すように言われているので先にそちらへ行く」
「んじゃあオレと亀ちんで調査続行しとくから、チカはヤタと組んだらいい感じっしょ!」
ダイダラボッチの調査がこのまま進んでいくことは確定したのだが、亀代は狭貫國からずっと胸に抱いていた思いを吐露する。
「このまま調査を続け、もしセンジンに辿り着いた場合……チカさまはどうなさるのですか?」
「どうもなにも、今までと同じだ。俺はセンジンの心の臓を喰らって人間になる、ただそれだけだ」
八裂が確信していた通り、血河は人間になることを今でも望み続けている。古の昔からずっとそれだけを望み、生きてきた男の決意は固いのだと皆思ったが──。
「俺はもう三つも心の臓を喰らったんだぞ。……それを今更立ち止まれるはずがないだろう、だから俺はやりきる」
それはとても、悲壮な決意に聞こえた。
「俺は人間になる、女王・日巫女のような立派で高潔な人物になるのはもう無理だが……俺はあの方と同じ"人間"になって、人間の感覚で世の移ろいを感じ──やがて死にたい」
血河の目蓋の裏へ浮かぶのは、かつての主人。快活で慈悲深く、その生涯を他者に尽くして亡くなった女王だ。
「俺は人間になる、必ず。そうすれば俺は──女王が何を感じ、何を思っていたのかを知ることが出来るかもしれない」
珍しく饒舌な血河。彼が自分の心の内を語るのは珍しく、まるでそれは"人間になる為の言い訳"を口にして自らに言い聞かせているように感じられた。
何とも言えない気まずい空気が流れたのだが……。
「……そっか! そんなに人間になりたいってなら、これからもオレが相棒として特別に協力してやるし! オレってばまじやさお!!」
そんな空気を破るように八裂は大きな声をだし、血河の背中をバシバシと叩く。
「いちいち叩くな、あとが声が大きいぞ」
一体何事かと他の宿泊客がこちらを見てくるので、八裂は照れたように笑う。
「あっはは、ごめ~ん! 静かにするからみんな許してネ★」
パチンとウインクして両手を合わせる少年の姿に、皆穏やかに笑い合うのだった。
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