ジャック

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 ジャック家の朝は早く、外はまだ薄暗い。  ジャック、兄ネッド、母の三人は、小さなロウソクが灯る食卓に揃うと、 「神様にこの食べ物を感謝します」と祈りを捧げた。  目の前に並ぶのは、ライ麦パン一切れと具のない塩味のスープ。絶対的に足りない。  この場に父はいない。まだベッドで酔い潰れて寝ている。  三人は、父を起こさないように静かに食べる。ここに談笑はない。  三人は、父が永遠に寝てくれることを常に願っていた。  起きれば、文句と共に暴力をふるうからだ。  それか、「今日はもっと稼いで来い」と、自分のことを棚に上げてまだ10歳と12歳の兄弟に命じるばかり。  父は港湾労働者だが、賃金は酒とギャンブルに溺れてまともに働かなかった。なんとか稼いだお金も、自分のためだけに遣った。足りなくなると、兄弟の稼ぎを取り上げた。  兄弟は、学校に通わせて貰えず、靴磨きやゴミ拾いで小銭を稼いでいたが、それでも足りない時は、ひったくりやかっぱらい、置き引きを繰り返していた。それもこれも、父に殴られたくないためである。  もしお金を渡せなかったら容赦なく鉄拳制裁と食事抜きであった。それでなくても満足に食べられない粗末な食事なのに、それさえ抜かれることはかなりの苦痛であった。  そのため、逆らうことはなく悪事を繰り返した。  母は庇ってくれることはなく、何も咎めない。父に逆らえば殴られる。そして、今日の食事をどうするかで頭が一杯であった。
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