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三人はあっという間に食べ終わった。丁度その時、父が起きてきた。
「この、ごく潰しどもが!」
開口一番怒鳴られる。
「俺の金で食いやがって! どいつもこいつもバカばっかりだ! この家には碌な奴がいない!」
誰かに何かを言われでもしてむしゃくしゃしていたのだろうか。ジャックたちに向かって罵倒した。
母は、父の顔色を伺ってばかりで兄弟を庇うことはない。
「さっさと出て行って、金を持ってこい! 何もなかったらメシ抜きで殴るからな!」
兄弟は揃って家を追い出された。
手ぶらで帰ったら、殴られて食事抜きである。それは堪らない。
「ネッド、今日はどうする?」
兄弟は、外に出ると今日一日何をするか話し合った。
これが遊びの相談だったら、どれだけ幸せだったろう。しかし、そんなことは夢物語である。兄弟のひそひそ話は、盗みなどの悪事に関したことだけだ。
「市場に行ってみよう。間抜けな大人がお金を落としているかも」
お金を拾うのがもっとも楽な稼ぎである。それ以外だと、置き引きが一番やりやすい。
二人は、市場まで来た。
ここは、人が多くて買い物に夢中になるあまり注意力散漫となり、置き引きしやすい。兄弟の格好の狩場であった。
「じゃ、ジャックはあっちな。俺はこっちを見る」
「分かった」
二人は、東西に分かれて別行動をとった。
ジャックが獲物を物色しながら歩いていると、一人の大人が目に留まった。
上質な衣服を着て。表情、振る舞いからもお金持ちの余裕が見て取れる。
自分の知る大人たちとは全然違う。もしかしたら、貴族階級なのはないだろうかとジャックは考えた。
懐から財布を出して、スパイス屋の商人と交渉中だ。その足元には革製の黒カバンが置かれている。中に何か詰まっていそう。さぞかし金目のものが入っているだろう。
「あれにしよう」
金持ち連中にとって、多少盗まれたところで痛くも痒くもないはず。
迷うことなく、カバンの取っ手に手を伸ばして持ち逃げした。
カバンは、ジャックの想像以上に重かった。これなら宝石や金塊、札束が入っているかもしれないと期待した。
スパイスを買い終えた紳士は、足元を見た。
「あれ? 私のカバンは? 消えた?」
「さっき、ガキが持ち逃げしましたよ」
「ええ⁉ あれには大事なものが入っているのに!」
紳士が気づいた時にはすでに時遅し。ジャックは裏路地へ消えていた。
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