14話:神であった少女に蛇は牙を剥いた

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「何があった?」 「……固有魔法に対しての天啓を受けました」 「それで?」 「……水晶玉が割れて、なんだかとても気持ち悪くて、逃げるようにここまで来た。怖かったの、なんでかは、知らないけれど」 「ふぅん……」  リーロンは目を細めた。マリアはふぅーと深く息を吐き出すと、リーロンをじっと見る。 「どうして水晶玉が割れたんだと思う?」 「さぁ? 誰かが割ったんだろ。自然に割れることなんて無ぇんだから」 「……怖い」 「それは“自分が”か? それとも水晶玉を割った“誰かが”か?」 「……両方」  マリアは顎を手に乗せ綺麗にネイルのされた人差し指でトントンと唇を叩く。それはマリアが考え事をする時の癖だと、リーロンは既に知っていた。 「リーロンは、サティサンガ卿についてどう思う? アタシは……怖い人だと思ってる。あの人はアタシを歓迎してない。当然だわ、男爵家の娘が公爵家に嫁いで来るんですもの、歓迎なんて出来ない……なのに、文句の一つも言わなかった。普段から彼はああいう人なの?」 「いや? 不平不満があれば口に出し己の意見を第一に押し通す男だ」 「ならやっぱり、アタシへの今日の態度は違和感だわ。嫌味の一つでも言っていいはずなのに……天啓の間にあの人がついてきたことも違和感なの。どうしてあの人はあの部屋についてきたの? なにか、確認したいことでもあったのかしら……リーロンはあの人に、アタシの魔法について何か話した?」 「いいや、何も。俺はそもそもあの男と会話を交わすことは滅多に無い。ビジネスライクの関係だ、仲介役としてアインが遣わされて、俺とあの男は連絡を取り合う。お前が俺の“テスト”を合格したことは伝わっているだろうが、詳細は教えてない」 「なら余計、不思議だわ。アタシを警戒するように見ていたのも、全部」  トントン、トントン。爪先で唇を叩きながら、マリアは考える。後ろで綺麗に結われていた髪は、走った後にベールを脱いだことで少し乱れて一房だけ零れ落ちてきていた。不思議な光沢を見せる真っ白なドレスに身を包んだマリアの、真剣に物事を考えるその姿が美しくて、リーロンは思わずマリアに手を伸ばす。  そんなリーロンの気持ちを露知らず、頬を撫でられ、マリアは顔を上げた。そして自分の頬を撫でたリーロンの行動に、不思議そうに首を傾げる。 「……? リーロン?」 「気になるなら、俺が調べてやるよ。じゃないとお前は自力で調べようとしてあの男の書斎に入り込みそうだからな」 「アハハ、否定できないわ……一度行動を起こそうとするとね、自分でも歯止めが効かないの。全く嫌な体質よね。アタシも困ってる。アナタにも、暫く苦労を掛けると思うわ、リーロン」  リーロンという味方が出来たことで、マリアの精神は少し安定したらしい。震えは止まり、あれほど恐ろしいと感じたものもどこかへと消えた。マリアはそれにホッとして、リーロンに感謝する。きっと察して、マリアのために頬を撫でてくれたのだと思うと嬉しかった。実際は別の思惑があったとしても、マリアは気付かない。頭が弱いのである。
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