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ゴホンとメイド長が咳払いをした。
「どうやら、思い違いがあったようですね。教育開始は明日からだったかも知れません。羽休め、行ってらっしゃいませお嬢様」
「分かってもらえて嬉しいわ。ええ本当に、アナタが賢い人で良かった。アタシだって血が流れるのは見たくないもの。
それじゃあ、今日もお仕事宜しくね」
マリアはヒラヒラと手を振り、堂々と屋敷を出て行った。メリンダもその後を追いながら、悔しそうに唇を噛むメイド長の姿に笑いを堪える。
「っ、ですがお嬢様! そう計画性も無しに出掛けると言われましても、馬車の準備もできておりません! 出掛ける際は最低限、先に知らせるなどのご配慮を頂けないと……!」
「アナタ達の手を煩わせるつもりなんて無いわ。一人で勝手にやるからお気になさらず〜」
言いながらロータリーに出たマリアが取り出したのは一枚のカード。そのカードの中で眠るのは、馬の姿をした魔神。
「“{青鹿毛の駿馬}よ、我と千里を征く騎馬と成れ。{瞬足}”」
次にマリアは速度を司る魔神を呼び出した。こちらは実体化させて、擦り寄ってきた頭を撫でる。この国で一番美しい青鹿毛の毛並みを持つ駿馬を前にして、マリアはメリンダをひょいと持ち上げて馬上に座らせた。実際はマリアの腕力ではメリンダを持ち上げるのは出来ないので、メリンダがマリアの動きに合わせてぴょんと飛んで着座しただけなのだが、これも演出である。
マリアは次はひょいと馬に跨ると、メリンダが自分の腰に手を回したのを確認してから{瞬足}に轡をして手綱を握る。
「それじゃあ、晩御飯までには戻ります。良い一日を、Bis bald!」
マリアは軽やかに手を振ると、ロータリーで助走を付け閉じられたままの屋敷の門をぴょんと{瞬足}に飛び越えさせた。唖然としてその背中を見ている使用人達を見てメリンダが堪えきれず笑えば、マリアもクスクスと笑う。
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