おそら

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おそら

『 おそら、行こうよ! 』  “おそら”をご存知でしょうか?  地方によって、”おしゃれ”や“おしょりん”、“しみわたり”など、呼び方は違うようです。  氷点下の朝、少し湿り気を含んだ重い雪が固く凍ることがあります。  踏み固められた圧雪とは違います。  普通、雪が降った直後にその上を歩くと、ずぼずぼと足が雪に埋もれます。40センチ以上も積もれば長靴に足ぼそ(長靴の上から取り付けるナイロン製のカバー)を付けないと、長靴の上から中に雪が入り込み、靴下が濡れて足先が霜焼けになってしまいます。  けれども、あまりにも気温が低いと、夜のうちに空から降ってきた雪が、手を加えられないそのままの形で固まってしまうことがあるのです。  見た目は降り積もっただけの真っ白フワフワに見えますが、プラスチック製のスコップが折れるほど硬く。    そんなカチコチの雪は、地面と同じように上を歩くことができます。 「やった!今日は“おそら”だ!」  多くの小学生にとって、この“おそら”は特別ステキな状態です。  住宅と田んぼの間を縫う、毎日同じ通学路が、“おそら”の日は変化します。  普通は歩けない田んぼの上を通って、学校までの道をショートカットできちゃうのです。    他の地域では呼び方が違うという事を大人になってから知りましたが、自分は、まるで真っ白な雲の上を歩くような特別感が味わえる“おそら”という呼び方が一番馴染みもあって好きでした。  ……好きでした。
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