001

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静かな廊下を歩く足音が響く。自由にしてて、とは言われたが、こんな奥まで来ては流石に怒られるだろうなと思いつつも戻る気は無かった。怒られる事に変わりは無いのだから、少しでも好奇心を満たして置きたい。 目に留まる扉を片っ端から開けようとしたが、鍵が掛かって居る。ひとつだけ掛かって居ない少し開いて居る扉があったので、勿論その隙間を覗き見た。いきなり開けない所は褒めて欲しい。 「!」 青と黒で装飾された展示室の様な部屋。室内を取り囲んで置かれた重厚なガラスケースには何も入って居ない。その中心にある一際豪華な展示台にだけ、何かが飾られて居るらしい。銀色の天蓋の間から見えるのは展示台と言うよりベッドであり、艶のある生地の柔らかそうなクッションが並んで居る。其処に並ぶ様に"それ"が。 そっと扉を開けて部屋の中へ。どうせ怒られるのだから…と、これは先程も同じ事を思った筈だ。 「……誰」 何処からか聞こえた声に、文字通り飛び上がる程驚いた。 「誰か……居るの?」 青いベッドに飾られて居る"それ"だった。黒いドレスを着て其処に座って居る。置かれて、が正しいだろうか。右サイドに紅いラインが入る青い髪。前髪から覗く少しつり気味の金色の眼。小柄な体をクッションに預けて此方を見て居る。腕も脚も無い、しかし美しい人形。 「……貴方が誰なの」 静かに、そして不機嫌そうに喋ったそれはヘッド付きのトルソー…では無く、ヒトだった。 「其処の水差し取って」 完全に作り物だと思って居たので、人形が喋ったと言う衝撃が抜けずに心臓が驚いたままドキドキして居る。 「飲ませて。少しで良い」 「ぁ……はい、どうぞ」 震える水の玉が薄いピンクの唇に吸い込まれる。彼女は一体何なのだろうか。 「……貴方、見た事無い。誰の代わり」 「えと、違います、ただの客人」 「客……誰の」 「  さん」 可愛らしい見た目に反してとても高圧的と言うか…物凄く敵意を持たれて居る様な。知らない奴がいきなり入って来たのだから当然か。それにしても、こんな姿…と言っては失礼だが、生きて行けるとは到底思えない非現実的とも言える人間が自分とそう遠くない位置に存在する事に驚きである。それこそ昔々の見世物小屋の様な。 「……そう。精々間違えない事ね」 選択肢があるなら、と少女は呟く様に言った。 「選択?何の……」 その時タイミング良くと言うべきか、遠くで私を呼ぶ声が聞こえた。
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