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「昨日、あの後どうなったの?」
翌日、仕事をしていると、繁が電話を掛けてきて尋ねた。
繁はメールを送るという事をしない、というか出来ないし、やる気も無いのだ。
機械が苦手な私だって、仕事でパソコンやスマホを使わざるを得なくて仕方なく習得したというのに、繁は苦手な事は絶対やろうとしない。
今時パソコンも使えずメールさえ打てないなんて、由紀子さんに離婚されたらどうするつもりなんだろう。
小さなリフォーム会社だと言っていたけれど、こんな向上心の欠片も無い男、両親が離婚を勧めるのも無理はない。
本の整理をしていた私は、店内に店長の姿が無い事を確認して小声で答えた。
「どうもならないわよ。やっぱり無理そうだし、それでお終い」
「会社、戻れないの?」
私が会社に戻れるかどうかなんて、たいして気にしてないくせに、心配そうに言ってみせる。
戻れたとしたら、また私の財布を当てに出来る―繁の頭にあるのは、どうせそれだけだ。
本当は、二ノ宮が私にとってどういう存在なのか、確かめたいだけのくせに。しらじらしい。
「今仕事中だから。後でこっちから掛け直すから」
そう言って私は電話を切った。
仕事を終えてから掛け直すと、繁の電話は留守録になっていた。
少し間を置いて掛け直しても、やはり留守録だった。私はメッセージを残さず切った。
夕方のこの時間だと、繁も一応仕事をしている身だし、出られないのかもしれない。
或いは、会社とは別棟になっている自宅に既に帰宅していて、由紀子さんと一緒にいるのかもしれない。
或いは―或いは仕事も由紀子さんもそっちのけで、別の女にかまけているのかもしれない。
けれど繁がどこでどんな女と遊んでいようと、今の私にはどうでもいい事だった。
付き合い始めの頃は、他の女とも遊んでたり、奥さんがいる事を知ってそれなりにショックを受けたけれど、嘘がバレた途端に、まるで自慢するように私の前で他の女の話をする繁の無神経さに呆れて、落ち込むのも嫉妬するのも馬鹿馬鹿しくなってしまったのだ。
なのでいい加減、自分と会っている時以外の繁の私生活の事は考えないようにしていた。
そこに例の『重婚事件』だし。
”本当に、しょうもない男”
そう思って、私はその日はもう電話をしなかった。
翌日繁のほうから掛かって来たけれど、二ノ宮に私が何の感情も抱いていない事や、もう会う気も無いと二ノ宮にそうはっきり言った事を確認すると、後は特にどうという事も無く、話はすぐに終わった。
私の復職の事など、はなから聞かなかったとでもいうように、もうその話題は繁の口からは出なかった。
「今度いつ会える?」
私をキープする為だけの、そんな惰性の言葉が、気怠さと一緒に吐き出されただけだった。
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