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第1章 互いの後悔
蛍雪高校から徒歩20分程離れたところ、大通りを抜けて細道を通り抜けると、昭和レトロな空気が感じられる外観の店が立ち並んでいた。
いわゆる商店街だ。
この地域は、全国屈指レベルの高校に子供を入学させたい世帯が集まったこともあり、近年は人口増加の域を辿っていた。
そして、急激な住民の増加に伴い、駅前には高層マンションや大型ショッピングモールなども次々と建設された為、駅から離れたこの古のエリアは、以前のような活気はなくなりつつあった。
その証拠に、年中シャッターを下ろしている店がほとんどだ。
そんな古い下町の空気の中で、ひっそりと構えている小さな銭湯があった。
脱衣所を抜けると風呂場では比較的に高齢の女性達が、湯船に浸かりながら井戸端会議をしていた。
「昨日のあのドラマ見た?」
「見た! 見た! もう私、最後の奥さんが不倫相手と対峙するシーンとか、心臓ドキドキしてた」
「来週が修羅場よ。楽しみよね」
周りの女性達が、あちらこちらでお喋りに夢中になっていた。
そして、一人離れたところで湯につかっている妙齢の女性がいる。
内海真己――
特段美人なわけでも、壊滅的に残念な顔をしたわけでもない彼女は、全国屈指レベルの蛍雪高校に首席で入学したばかりだ。
そして、今日自分の身に起こった出来事を振り返っていた。
(私は何を見てしまったのだろう……)
「今見たことは全て忘れろ。もし誰かに話せば――」
「殺す」
橘日和――そう告げた絶世の美少女は、真己が寝泊まりしている旧校舎から去っていく間際、確かにそう言った。
あまりの迫力と彼女の秘密の重大さに、真己は度肝を抜かれた。
結局、その場では何も言葉にすることが出来なかった。
(橘さん、怒ってたな……やっぱり胸が小さいこと気にしてたのかな)
(うーん……でも、あのサイズはどう見積もってもAカップだよね)
最初から御付き合い頂いている方々は、色々思うことはあると思うが、突っ込むのは少し待ってほしい。
真己は足先から鼻の下まで湯船に浸かり、ぶくぶく泡を吹きながら、自分の世界にも、どっぷり浸かっていた。
すると、同じく湯船に浸かろうとした女性の身体がふと目に入り
(なわけない……!! どう考えたってあれ男の人だよ!!!)
(そうとは知らず私……)
真己の回想と、そして後悔が進む――
日和と仲を深めていくにつれて、真己は自分自身のことはもちろん、女性特有の悩みや話題についても積極的に話すようになった。
生活保護のこと、そのせいでイジメられていたことや居候先のことなどは、お嬢様育ちの日和に話すのは、流石に恥ずかしくて遠慮していた。
――とある日のこと
「内海さん、今日顔色悪そうだけど大丈夫?」
「実は……今日生理2日目なんだ」
「大変だよね。無理しないでね」
「ありがとう」
――そして、またとある日のこと
「この下着可愛い……」
図書館でファッション誌を二人で仲良く見ていた時だった。
真己が思わず、恥ずかしそうに呟くと、
「そうだね、内海さんに似合いそう」
「そ、そう?」
「うん、柔らかい雰囲気とか、パステルカラーとか内海さんに合うと思う」
――そして
「うわああああああぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!」
現実に引き戻された真己は湯船から立ち上がり、頭を両手で抱えて絶叫した。
周りにいた女性たちが、驚いて一斉に真己の方を見るが、
自分の世界に完全に入り切っている彼女は、一切気づかない。
「私は何てことを……! 恥ずかしくて死ぬ!!」
そう言った後、今度は頭のてっぺんまでお湯に浸かった。
周囲は不審がってる者もいれば、心配しているような者もいたが、真己自身は全く気にしてなかった。
正確には、気にする余裕がなかった。
(明日から、どんな顔して接すればいいんだろう……)
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