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 今日もなんとか、日が落ちる前にすべての箇所をまわることができた。  ふらふらになりながら、ねぐらに戻る。今は使われていない山道を登った先にある、朽ち果てた寺だ。わたしが村を離れたころからもう人の手が入っていないようだったから、今となっては屋根や床には穴が空き、いつ倒れてもおかしくない柱だっていくつもある。  足場の悪い道を草木をかき分けながら進んでようやくたどり着き、薄い布を敷いた床の上に倒れ込む。体に力が入らない。今日は少し血を流しすぎたようだ。瞼を閉じると、すぐに意識が遠のいていった。  久しぶりに父の夢を見た。かつて住んでいた家の庭先で、わたしと相撲遊びをしている。立派な角を2本も生やした父は、太い腕でわたしを軽々と抱き上げ優しく言う。 「お前も大きくなったら、俺の代わりにこの村を守るんだぞ」  夢の中のわたしは、元気よく返事をした。
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