たまにはこんなファンタジーも

15/26
432人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
毎日先生のためにお弁当とお菓子を作る。 普通の高校生だったら大変だったかもしれないけど、オレは前の生で一応主夫だったので家事全般はお手の物。特に料理とお菓子作りは結構ハマってたので、手際も味もいいはずだ。 先生の好きな物、もっと聞いておけば良かった。 前の時は先生と生徒の範囲を超えることはなく、話せても廊下で少し立ち話をする程度だったので、そんなに踏み込んだ話はしなかった。だってただ話せれば良かったのだ。毎日少しでもいい。挨拶だけでも良かった。その姿を見て、声が聞ければ満足だったんだ。 ほんと、ピュアピュアだね。 自分のこととはいえ、その甘酸っぱさに気恥ずかしくなる。でも今世はそんなこと言ってはいられない。早く親しくなって人間ドックを受けてもらうのだ。 その話も、どうやって切り出すのかは悩んだ。 だって普通の高校生が人間ドックなんて単語をまず口にしないと思う。そんな会話はある程度歳をとってからで、オレだって初めてしたのは40歳になってからだもの。それまではそんなこと考えもしなかったし、自分が病気になるなんて思いもしないから。よく言うだろ?自分だけは大丈夫だって。なんか変な自信みたいのがあるんだよね、人間て。 でもそれでもするようになったのは、彼の勧めがあったからだ。 彼はオレと本気で付き合うと決めた時、初めて人間ドックを受けたという。 それはオレのためだったんだって。 先生のように自分まで病気で早死にしてしまったら、オレがまた悲しまなければならない。だからそうならないように、ちゃんと健康であることを確認し、そしてそれを確認し続けるために、彼は毎年人間ドックを受けてくれていた。 そんな彼はオレが40歳になった時、一緒に元気に歳をとっていこうって、オレを人間ドックに誘ってくれたんだ。そしてそれから毎年、一緒に受けるのが恒例となった。 そのお陰で彼もオレも多少の病気はあったものの最後まで大病せず、寿命を全うしたオレを彼が看取ってくれた。 と話は逸れたけれど、とにかく高校生がする話ではないので、それをどう先生に切り出すのか。それで思いついたのが、健康診断の時に架空の親戚の病気話から先生にも人間ドックを受けてもらうというものだ。 学校行事に春の健康診断がある。その時に大人になったらそれだけじゃ足りないと話を進め、実は従兄弟(架空)が病気になって闘病したという話をし、先生も若いけどちゃんと検査をした方がいいと話を持っていく。そして毎年人間ドックを受けてもらうようにするのだ。 いつ病気になるのか分からない。だから作戦が上手くいって今年人間ドックを受けてくれたとしても、まだ見つからない可能性もある。だから来年も受けてもらうようにするには、毎年受けた方がいいと先生に思わせなければならないのだ。 そう思いながらオレは毎日準備室を訪れ、お弁当とお菓子を渡す。お菓子は一緒に居る安田先生にも渡してたけど、お弁当は加賀美先生だけ。本当はすぐに断られると思ったんだけど、先生はずっと受け取ってくれていた。それが嬉しくて、オレは毎日お弁当を作るのが楽しかった。 朝会って、放課後もいたらお話して、そんな毎日を続けていよいよ健康診断の日が訪れた。 実は春の健康診断て、意外と早い時期にあるんだよね。だからもしかしてまだそんな話をするほど親しくなれないかもしれないと思ったんだけど、毎日頑張った甲斐あって、それなりに親しくなれたと思う。 今世は恥も外聞もなく、必死に通い続けたから良かったのかもしれない。安田先生とも仲良くなれたし。 そうして勝ち得た和やかな放課後のひととき、いつもの三人での会話の中で昨日行われた健康診断の話が出た。だからオレはチャンスとばかりに先生たちにも話を振る。 「先生たちもするんですよね?健康診断」 「もちろんするさ」 オレの問いに答えてくれたのは安田先生。 実は親しくなったと言っても、もっぱら話すのはオレと安田先生だ。でも同じ場にいるので、一応加賀美先生も話に入っていることになっている。 「毎年教員は6月に行うんだよ」 「先生たちはオレたちよりも詳しくやるんですか?」
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!