たまにはこんなファンタジーも

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オレは戻りきれない心を抱えて、週末を過ごした。そして明けた月曜日。オレは気合を入れて準備室を訪れる。 「おはようございます」 いつものように笑顔で挨拶して中には入ると、安田先生に挨拶して今日のお菓子を渡し、そして加賀美先生の所へと行く。 「おはようございます。加賀美先生」 ちゃんと笑えている。 大丈夫。 そう心に言い聞かせながら、いつものようお弁当とお菓子を机に置く。 「今日もちゃんと食べて下さいね」 にこにこ笑顔のオレに、先生もいつもと変わらない笑顔で応えてくれる。 「いつも悪いですね。ちゃんとお母さんにお礼を言っておいてください」 「やだな、先生。これ一応オレが食べたことになってるんだから、そんなこと言いませんよ」 そう言う理由で先生に食べてもらってる。 「ああ、そうでしたね。では川嶋くんからの言葉として伝えておいてください」 「気が向いたら言っておきます」 そういうのが恥ずかしいお年頃なんで。 そう言外に匂わせながら、オレは準備室をあとにした。 良かった。 先生いつものままだ。 変な空気になったらどうしようかと思っていたオレは、いつもと変わらぬ朝にほっとした。でも心の不安は消えない。オレはちゃんと、先生に人間ドックを受けてもらう約束を取り付けられていなかったからだ。 本当はもう一度その話をして、受けてもらう約束をしなきゃいけない。でもそうするとまた、あの時の気持ちになってオレは冷静ではいられなくなる。 安田先生から言ってもらうようにお願いしようかな。 そう思ってオレは、安田先生しかいない時にそっとお願いしに行った。そんなお願い変に思われるかと思ったけれど、安田先生は快く引き受けてくれた。だけど最後に言われた言葉に、オレはぎょっとする。 「でも川嶋、襲うのは卒業してからにしろよ」 別れ際に言われたその言葉に、オレの顔は真っ赤になる。 「お、襲ったりしませんからっ」 そう言ってオレは走ってその場を離れた。 そりゃ毎日通ってるんだから、バレるのも時間の問題だし、安田先生なら応援してくれるかもとは思ったけど、実際面と向かって言われると恥ずかしい。 大抵の恥はかき捨てられてたのに。 まだまだオレにも純朴な高校生らしい気持ちが残っていたのだと思いつつ、オレは逃げるように家へと帰った。 それから時は変わらず過ぎていく。 ゴールデンウィークが過ぎ梅雨も明け、夏が到来すると当然学校は休みとなり、先生とは会えなくなる。 途中オレの発情期があり会えない日が一週間あったけれど、その間先生に会いたくて仕方がなかった。なのに今度はひと月以上も会えないのだ。 もちろん今世も先生と連絡先など交換していないので、連絡など取れる訳もなく、クラブにも入っていないオレが学校に行く理由はない。 会いたいな。 前のときも長期の休みにはそう思ったけれど、あの時よりも親しくなれた今世はもっとそう思ってしまう。一度は諦めた恋なのに、またこんなに苦しいほど好きになるなんて。でも仕方ないよね。目の前にいるんだから。 この世にいないと分かっていても、心のどこかに常にいた先生。それがいま、生きて目の前にいるのだ。 もしも先生の真実を知らされず裏切られたと思ったままだったとしても、先生を目の前にしたらきっと、オレはまた先生に恋をするだろう。 結局オレは、ずっと先生が好きなんだ。 だから思う。 本当に生きていて欲しいと。 安田先生はちゃんと言ってくれたと言っていたけど、本当に行くかどうかは先生次第だ。 ちゃんと受けて欲しい。 神様でもなんでもいい。 お願いだから、先生を助けて。オレはもう、先生の死を知りたくない。 だからお願い。 先生の未来を変えて・・・。 オレは毎日そう願った。 そして待ちに待った新学期。 オレは急いで準備室へと向かう。 「おはようございます」 走ってきたせいで息が切れてるオレを、安田先生が笑顔で迎えてくれる。少し日に焼けたみたいだ。
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