川村景子のおつとめ転々日記

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2月〇日(水) 会社帰り、いつもの会合へ顔出し。 以前から薄々感じていた不安が、この日、極まる。 ――なんでだ。今の事務局さん、事務局業務をまったくわかっていない。どういう事情かは知らないが、前任者との引き継ぎがされていないのでは? 今日の役員会でのあの一言。 「この会って、通帳あったんですね!」 一瞬ゾクッとふるえたのは私だけじゃないだろう。事務局が、会の通帳の存在を知らない? 一体今までどうやってきたんだ。明るく言ってるのがなお悪い。 「通帳見てわかったんですけど、この会の収入っていうのは、会で活動しての売り上げと、助成金の二本柱なんですね!」 ――全員知ってる。 なぜあなたは知らない。新卒の職員ならともかく。あなたは中堅通り越してお局の世代だろう。なぜ知らない。怖すぎる。 もしかしてこの人、事務局業務自体やったことがないのか? まさか中途採用で一年目だったのか? 歴代の事務局を務めた方々は、皆プロフェッショナルで頼りになった。――けど、そういえば先代、先々代あたりから、どんな人だったか名前も顔も思い出せない。私が役員から離れて、付き合いが浅くなったから? いや、一年ごとに事務局さんがころころ入れ替わっていたからか? 地域の若者で構成されたこの会。 今の事務局さんになってから、メンバーがどんどん辞めていく。 空気が読めないとか、ジェネレーションギャップによるコミュニケーションの失敗なんかはしょうがないとしても。事務局業務はあなたの仕事なのだから、把握しててもらわないとさすがに困る。 この方の同僚さんたちはどう思っているのか。この状況を把握しているのか? 「じゃ、次年度は新メンバーさんの加入について頑張ってみましょうね!」 あなたがそれを言う? なんだこれは。怒りと失望でふるえてしまうよセニョーラ。 ……いけない。ストレスは病のもと。 落ち着こう。 「……あの、前にメンバー募集のチラシがあったと思うんですけど。今も在庫残ってるんでしょうか?」 この一年、イベントがあるたびに私は「募集チラシも置いてください」と伝えたきた。が、一度もチラシが用意されたのを見ていない。 「それがあるにはあるんですが、情報がかなり古くて、ちょっと使えないんです」 だっっっったら、なぜそれをもっと早くに言わない! ああ、いかんいかん。このままではいかん。 このストレスを浄化しなくては。 すべては私の健康のために。 帰るとき、役員の一人で、信頼しているFさんにこっそり胸の内を話してみた。Fさんも事務局さんを不安に思っていたようでホッとした。私だけじゃなかった。 「組織があれこれ変化しているから、その歪にたまたま陥ったのが今の事務局さんなのかもしれないね」 さすがFさん、視野が広い。 事を荒げるのは私の本意ではない。 健康に悪いし。 しかしこの状況をさらに1年繰り返したいかと自分に問えば、それは「否」だ。 このままでは取り返しがつかないくらいメンバーが減ってしまう。会の存続と私の健康が危ぶまれる。 ここがなくなるのは困る。私の場合仕事を転々としているから、勤め先以外のコミュニティーは大事だ。たまに次の勤め先に繋がる情報を得ることもあるし。 間もなく異動の時期。 まずは今の事務局さんが担当から外れるかを静かに見守ろう。 あとはどうするか―― 「募集チラシも作り直した方がいいよね。誰か作れる人いないのかな」 さすがFさん、そのとおり…… 「……あ」 「え?」 「……私、作れます」 何度も転職しているうちにすっかり忘れていた。チラシ作りなら慣れている。以前、チラシやカタログ制作の仕事に就いていたから。 円満卒業していった会の先輩たちは勧誘がとても上手で、毎年何人か新メンバーを連れてきてくれていた。私は面と向かって勧誘するのは苦手で、あまり成功したことがない。 だけど、これならできる。 新しい募集チラシを、私が作る。 入りたくなるような、魅力あふれるステキな募集チラシを。 こういう形でなら、私も貢献できる。 ストレスで体を壊してから仕方なく勤め先を転々としてきたけれど。今思えば、そのおかげでいろんなスキルが身に着いたとも言える。 脈絡なく転々として、だから経験も点々と散らばっていたけども。その点と点を星座の如く繋げていけば、今の私に活きてくる。 今の私に、できることがある。 きっとこれは、私の務め。 お役目だ。 どんなふうに作ろうか。腕が鳴るぜ。 事務局さんで悩んでたことなんか、どうでも良くなってきた。いいぞいいぞ、スッキリしてる。よかった、ストレスはうまく浄化できた。 もう夜も遅い。今日はここまで。 寝不足は健康の敵。 明日からまた、おつとめに励もうぞ。
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