婚約破棄事件の余波

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 ケネス王子は地図上のある印を指差した。  この街にはあちこちに高い塔があった。その塔のうちのいずれかに、もしくは今度こそ大聖堂に宝石が預けられている可能性がある。  ケネス王子が指差したあたりには、このショーンブルクのすぐ近くにあるマンスフェルト銅山の精錬所の銅を扱う商会があった。つまり、この国の銅山のほぼ全てを所有するロレード商会の支店だ。この街の近くには塩坑もあり、その所有者もまたロレード商会であり、彼らは塩生産でも大きな富を得ていた。ロレード商会はここで生産された貴重な塩の交易も行っていた。  マーケットが開かれているマルクト広場を通りぬけ、立派な建物の前を歩いているど、私たちは街の行き交う人々が同じことを話している場面に何度も遭遇した。 「ロレード家が先の戦争で皇帝に融資をしたおかげで爵位を賜るらしいぞ」 「まあ!ついにお貴族様になるのね」 「あれほど急激に金持ちになった奴らは見たことがないよ」  どうやら今日は街中でその話題で持ちきりのようだ。ロレード商会が発行している新聞を手にしている人々も多く見かけた。エレオノーラの実家はまだまだ飛ぶ鳥落とす勢いでさらなる拡大中ということらしかった。
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