舞踏会で

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 時計台の鐘が鳴った。いよいよだ。私は深呼吸をする。  私の死を回避するには契約を全うするしかない。私が振り向くと上等なレースを贅沢にあしらったドレスの衣擦れの音がさやさやと私の耳に響く。これらも全ては契約のために特別にあつらえたものだ。  私は潔く心を決めた。行くしかない。煌びやかで美しいドレスを身に纏った姿でつかつかとまっすぐにドアの前に歩み寄る。ドアの両側に立つ着飾った従者がさっとドアを開けた。  ――落ち着いて……さあ、ぶちかますわっ  私は壇上の玉座に座る陛下にスッと視線を送った。陛下は小さくうなずいた。私は何食わぬ顔で舞踏会場の美しい床の上を滑るように優雅に歩く。目的の人は……。  ――いたわ……  鼻筋のスッと通った美麗な横顔を一目見て、彼が微笑んでいるのが分かった。微笑んで彼が見つめている視線の先には私の姉がいる。優しい表情の姉は私が歩いて近づいてくるのに気づいた。 「あら、お姉様。わたくしの婚約者である第一王子とやけに親しくしてらっしゃるのね」  私は最上の笑顔で嫌味を口にした。 「やけに親しいとは、何が仰りたいのかしら?あなたと王子が結婚すれば、私の可愛い弟君(おとうとぎみ)になるのよ。王子、弟君と言ってしまってごめんなさい」 「いや、構わないよマリアンヌ。ロザーラ、何が言いたいんだ?」  第一王子のウィリアムはイライラと私を見つめている。はらりと落ちてくる前髪を気忙しそうにかきあげている。
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