婚約破棄事件の余波

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 銀行の前で人々が談笑しているのを私は見つめた。みな、生き生きとして闊達で頬の血色がよく、街全体に活気があるのがよく分かった。陛下の国の私が住んでいた街より、今まで通り過ぎてきたどの街より、人々が自由に振る舞っているのに私は驚いた。  レティシアは慣れた様子で街を進み、ロレード商会の支店の前にくるとこちらを振り返って肩をすくめた。 「なんと言って中に入ったら良いのかしら?」  ラファエルの身分は隠さなければならない。ケネス王子の身分を明かしても、たちまちに周囲の興味を惹きつけてしまうだろう。 「ここでは様子を見て正体を明かす必要があるよ。なぜなら、おばあ様の手紙が預けられている可能性があるから。その場合は僕の正体が分からないと渡さないだろう」  ラファエルはささやいた。 「じゃあ、銅と塩の買い付けにきた、商人に転じた田舎貴族の振りをして中に入ろう。妻を連れてこの街にやってきたことにするんだ」  ケネス王子がささやき、私たちはうなずいた。騎士と侍女たちには通りで待っていてもらう。馬を引いて通りで待つ彼らを残して、私たち4人はロレード商会の大きな建物の中に入って行った。建物の隣には立派な塔があったが、まずはロレード商会からだ。
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