2 忘れるわけがない

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「俺が覚えていないと思ったのか? むしろあんなに鮮明な記憶を植えつけられたのに、忘れろという方が無理な話だな」 「そ、そんなことは私には関係ないし……でもあなたたちがやった行いを忘れていないのなら、私の言葉が効いたってことで喜ぶべきなのかもしれないわ」  その言葉は杏奈の本心だった。忘れられるよりは、記憶の片隅にでも残って、自分たちの行いを反省してほしかったから。  だが今の状況は反省とは明らかに違っている。何故かわからないが、彼からは欲望に飢えたオオカミのような匂いがした。  それに--彼の視界に入り、彼の視線に捕らえられていることに胸が熱く高鳴る自分がいることも否定出来なかった。 「まさか君から俺に会いにきてくれるとはね、驚いたよ」 「正体がバレていたのなら、こんな所にノコノコやって来ないわよ」 「なるほど。それなら俺の対応はあながち間違いではなかったんだな」 「あの……そろそろ離してほしいんだけど……」  杏奈は顔を背けて少しもがいてみたが、やはり男の力強さには到底及ばない。由利に支えてもらわなければろ立っていられない状況から、早く抜け出したかった。 「それはまだ出来ないな」  由利の手が杏奈の腰にふれ、そのまま彼の方に引き寄せられる。下半身が密着し、この男が何をしようとしているかを察した。その瞬間、杏奈の中に怒りが込み上げてくる。 「私はただあの土地のことを知りたくて、話をしに来ただけよ! あなたに体を許すようなそんな軽い女に見える? もう昔みたいにからかわれるのは御免なの……馬鹿にするのもいい加減にして!」  吐き捨てるようにそう言うと、由利は驚いたように目を見開いた。 「馬鹿になんてしていない。何のことだ? むしろあの頃に俺たちを見下したような目で見て、毛嫌いしていたのは碓氷さんの方だろう」 「……何のこと……?」  目を(しばた)かせながら、杏奈は首を傾げた。
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