序章

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序章

 目まぐるしく交差するライトが、重なって静止した。    生き物のように渦巻いていたスモークが、解けながら、ゆっくりと落ちてゆく。  紗が掛かったような光の中で、将大は真っ白な衣装を身に纏い、歌っている。  半透明の、優しく霞んだ声で、暗く閉じた空間を自分の色に塗り変えてゆく。  ポップに、メロウに、アップテンポに、曲調が変わるたび、観客たちは体の反応を変える。  無作為に揺れ、手を叩き、笑みを零す。  歌が、重低音が、熱気が、この瞬間、この場所を一つにしている。  将大が魔法を使えたなんて知らなかった。  大学まで出してもらっておきながら就職もせず、堂々と宙ぶらりんの日々を生きる、音楽しか頭にない、ただのお気楽男だと思っていたのに。  いや、知っていたのかも。  息を吞んだまま瞬きさえ惜しむように、祈るように御典(みのり)が将大を見つめている。  人々の垣根越しに、つま先立ちで、溢れる涙を指先で拭いながら。    音の洪水に潜り込み、何も取りこぼすまいと、全てを記憶に刻み付けようと、貪欲なまでに集中している。  生まれる前から一緒の私さえ、きれいさっぱり忘れ去って。
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