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担架に乗せられながら男は涙ながらに訴える。
「もう、駄目かと思いました。僕はこのまま死んでしまうんだろうと思ったんです。何度も何度も死にかけました。寒くて、痛くて、おなかが空いた。何よりも空腹が一番辛かったです。持って来ていた食料を食いつくした時は絶望しました。おなかが空いた、おなかが空いた、おなかが空いた……それしか考えられませんでした」
捜索隊の隊員が男に訊ねる。
「きみ、ひとりなの?」
すると男は間髪を容れず淡々と答えた。
「はい、僕ひとりです」
この答えに隊員達は首を傾げる。
何故ならホテルに宿泊していたのも、登山届に記入されていたのも"ひとりの男"ではなく"ふたりの男"であったからだ。
「……ああ、おなかが空いた。山を降りて元気になったら、次は美味しいものを食べたいです」
そう言って男は微笑んだ。
《終》
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