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「アイさん、どうぞ~」
看護師に呼ばれ、私と母は診察室に入る。
私は主治医と近況について語り合い、心理検査も受けた。
診察を終え、主治医である精神科医は私と母にこう言った。
「寛解ですね」
私も母も安心した。
私はこれまで、「解離性同一性障害」と診断され、治療を受けてきていた。
昔は多重人格などと言われてきた病気だ。
ただ、私の場合は、純粋な意味での多重人格とは異なる。
別の人格が出てきて乗り移る、みたいなことは起きない。
私、愛としての人格ははっきりと存在しつつ、別の人格、愛と愛が心に現れるのだ。
「現れる」というよりは、私は英語の勉強やピアノの練習への過度のストレスから、こういった人格を私自身が「作り出した」と言った方が適切だろう。
一般的な多重人格は「憑依型」と呼ばれるのに対し、私の場合は「非憑依型」に分類される。よって、人格を乗っ取られるということは、私の場合はない。
私の場合は、自分を見ている別の人格が現れる、という表現がしっくりくる。
自分が出演している映画を観ている感じかな。
自分自身に対して意見を持ったり述べたりする人格が現れるのだ。
その人格が愛と愛であった。
彼女らが出現している間は、私は愛ではないような気がしてしまう。
そのため、私は私の意思で考えて行動しているという自覚をなかなか持てずにいた。
それがとても苦しかった。
今回、私は作り出した人格を消すことができた。
そのことにより、私の離人感が解消されたのであった。
先生は、
「自分の意思で人格の統合を成し遂げた例は珍しいですよ」
と言ってくれた。
私は欠点だらけの人間。
そんな自分が許せなかった。
それと同時に、欠点は欠点のまま認めてほしいという気持ちもあった。
そんなことから、私は解離性同一性障害になってしまった。
しかし、私は私。
私は心の中の姉や妹を消して、私を取り戻した。
* * * * *
翌日、私はいつもと同じように学校に行った。
そして、クラスメイトと雑談を楽しむ。
「私、一人っ子なんだよね~。だからさ、優しいお姉さんがいたらいいな~とか思っちゃうんだよね。あと、できればかわいい妹もいたらいいな~。口うるさくて生意気でもいいからさ。でもね、最近思うんだ~。一人っ子ってさ、寂しいこともあるけど、兄弟のせいにしないで自分の人生を自分で生きることになるからさ、それはそれで素晴らしいことなのかも、って思うんだ~」
「アイ、随分まじめに語っちゃってるね。何かあった? どうしたの?」
「うふふ……別に」
その後も、クラスメイトたちと一緒に、こんな兄がいたらいいな、こんな妹がいたらいいな、なんて妄想話に花を咲かせるのであった。
《 了 》
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