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部屋で起こる不思議な現象は、日に日に増えていった。
カーテンは朝になると開いていて、仕事から帰ってくる夜には閉まっている。
洗った食器も洗いカゴに置いたままにしていたのに、朝や帰宅すると元の食器棚にしまわれている。
良介も姉の江麻も洗った食器は自然乾燥するほうで、朝に洗ったものは夜に、夜に洗ったものは翌朝しまうようにしていた。
夕食後、ビールをこぼして、それを拭いたティッシュの箱が空になった。
予備で買っておいたものを出してくるのが面倒で、朝になったら出してこようと思っていたら、朝起きた時にはすでに新しいティッシュに交換されていたりもした。
帰宅してシャワーを浴びている間にも、脱ぎ捨ててあったスーツがハンガーに掛けられていた。
それだけではない。
キッチンに立っていた時、すぐ後ろを誰かが通ったような気配を感じた。
窓は開いていない。
換気扇も回していない。
それなのに、首筋にわずかな空気の流れを感じた。
「……結菜? 返事をしてくれ!」
良介は部屋を見渡しながら言った。
当然のように、返事はない。
「頼む! もし、ここにいるなら……壁を二回、叩いてくれ」
言葉が話せないのなら、せめて合図でもいい。
何でもいいから、とにかくいるという証しが欲しかった。
しばらくの間、部屋は静寂に包まれていた。
「……だよな。そんなはずない、よな」
諦めかけた時、コンッ……コンッと音がした。
壁を小さく叩いたような音だ。
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