第二話

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第二話

「おはよっ。ねぇ、昨日の投稿、見たっ!?」 「見たみたっ!  やばいよね!! ついに映画デビューでしょ」  夏休みが間近に迫っている朝の教室。  中では、女子中学生たちの悲鳴に近い声が響き渡っていた。  咲妃は、一人静かに窓側にある自分の席につく。  学校に来れば、テレビを見ていなくても最新のニュースが勝手に耳に入ってくる。  ―――主に芸能ニュースばっかりだけど。 「咲妃、おはよ!」 「あ、みっちゃん! おはよ」  肩を叩かれ、振り返ると親友の美千留(みちる)が目を輝かせていた。 「ね、聞いて! 彼氏が今度、海に連れて行ってくれることになったの!」 「へぇ、例の高校生彼氏さん?」 「そうそう! めっちゃ楽しみっ」  恋をしていて、彼氏の一言一句に素直に全身で喜びを表す美千留。  そんな彼女が少し羨ましい。  咲妃には不思議と輝いて見えた。 「咲妃は? 夏休み、どっか行くの?」 「うーん。暑いの苦手だから、家にいるかなぁ」 「えー、勿体ない!どっか一緒に出かけない?  映画とか水族館とかさ」 「みっちゃんとなら、出かけたいな!」 「よし!  じゃあ、テスト終わりにのやつ、観に行こっ」  予期せぬ美千留の言葉に心臓がドクンと跳ねる。  実は、今朝から女子の間で噂になっている人物の名前が出てきたからだ。その名前に秘かに反応してしまう。  だが、タイミングを読んだかのように始業の鐘が鳴り、咲妃はほっとする。そのまま会話は強制終了となり、「またあとでね!」と美千留が自分の席へ戻っていった。彼女の高く結ってある長い髪が軽やかに揺れる後ろ姿を見つめながら、小さく息を吐く。  未だに親友である彼女にも言えていないことがあった。  それは―――、“(あらた)くん”こと神城(かみじょう)(あらた)は、咲妃のだということ。  彼は高校生モデルとして活躍していて、最近人気が急上昇中でついに今度は映画にも出ることが決まったらしい。  新の母親と咲妃の母親は、大の仲良し姉妹で休みになるとよく家族ぐるみで会っている。だから、新情報は誰よりも先に知ることができた。  周りは新の仮面に騙されていると常々思う。彼は、「優しく気遣い上手なジェントルマンで、ストイックな人」というで人気があるのだ。  それを聞いた時は、自分の耳を疑ってしまった。  あので超がつくドSが、優しくてジェントルマン?  いやいや、ないないっ。絶対にありえない。  みんな、目を覚まして欲しいと切に思う。  その一方で、彼を取られてしまったような、何だか寂しいような、自分でも上手く説明できない気持ちになる時があるのもまた然り。
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