第三話

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第三話

******* 「よぉ、チビ咲妃。何の用だよ? まさか、俺に会いたくなっちゃった?」 「……。お母さんにお遣い頼まれたの」 「ほぉ。チビも一人でお遣い出来るようになったんだな?」  学校帰りに例のの家に立ち寄ると運悪く、張本人と遭遇してしまった。  頭の上に片肘を乗せられて、身動きがとれなくなる。 「相変わらず、ちっせ」 「が無駄にデカくなったんでしょっ?」  下から睨み付けるように見上げるが、新はどこ吹く風だ。  昔は咲妃の方が背が高く、女の子みたいに線が細かったのに、気が付けばこっちが見上げる程の身長差になり、どんどん男らしい体格になっていて会う度にドキドキさせられる。  新が不思議そうに見下ろす。 「で? お遣いって、なんだよ」 「……これ。おばさんに渡してって」  母親から託された保冷バックを渡す。中身は、タッパーにたくさんのおかずが詰められている。新の家は共働きのため、専業主婦である咲妃の母親が定期的におかずを作って、こうして届けているのだった。 「お、サンキュー! おばさんの飯、美味いんだよなぁ」 「今日もおばさん、帰り遅いの?」 「いや、午後休で今、買い物に行ってる。―――上がっていくか?」  ドキリとする。  急にさっきより少しだけ、ほんの少しだけ優しい声色になった気がする。心なしか表情も和らいでいるように見えた。 「し、仕事は?」 「今、テスト前だから減らしてもらってる。……そういや、咲妃もそろそろだよな?」 「う、うん」  顔を覗き込まれて、目を合わせることができなくなり、声が裏返る。バクバクと心臓の音がうるさい。  今にも相手に聞こえてしまいそうで、落ち着かなくなる。  いつからだろう。  こんな風に彼のことを意識するようになってしまったのは―――。もし叶うなら、一緒にテスト勉強とか出来たらいいのにと思うようになっていた。 「……数学とか教えてやろうか?」 「えっ」  まるで心を見透かされたかのような言葉に驚き、思わず固まってしまう。 「なんだよ。そんなに驚かなくてもいいだろ。小学生の時も教えてやってたんだし」 「いや、あれはいつもうちのお母さんが無理矢理……。そもそもあっくんから誘うの、珍しくない?」 「い、嫌なら、別にいいぞ。無理にとは言わない!」  新は逃げるように背を向け、リビングの方へ足早と向かった。心なしか長い髪から覗いている耳が赤くなっているように見えたけど、気のせいだろうか。  不思議に思いつつも、小学生の頃が懐かしくなった。
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