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また胸の中で、情熱が空回りする音がしている。
耳障りなノイズなのか、或いはこれも一本の熱いメロディーなのか。
『冬木君、作詞出来た?そろそろ……』
スマホの向こう、マネージャーの鳥島さんの声はイライラしている。急がなきゃ……
「出来ました!すぐ送ります!」
電話を切って、パソコンからメールを送信。
遅くなってすみません。文字だけじゃなくて、心の声も添付できたらいいのに。
人気が伸び悩んでいる俺達に仕事を取って来てくれる鳥島さんには感謝しかない。
でも、自分で歌うためではなく、人の為に「作詞家」として詞を書くのは、正直ちょっとやりにくい。
こっちにだって、歌手として世に出ているからにはプライドってものがある。
人に提供する歌詞だからこそ、いいものを書かなくちゃ。
寂しそうなギターが目に入ったから手にするとスマホにまた着信が。今度は相棒の秋葉からでほっとする。
『冬木、こっちは何とか終わったよ。
そっちはどう?』
「ごめん、ぎりぎりになってさ。鳥島さん怒らせたかもしれない」
『気にすんな、大丈夫だよ。次は俺達の新曲に取り掛かろう。俺もやっと自由に出来る』
「ああ、ごめんな」
もうすぐ三月も終わる。
季節は春だというのに、俺達はなかなか日の当たらない活動を続けていた。
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