序章

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序章

 氷樹の森を、滑るように飛びながらひとりの少女が先導する。風に流れる氷雨色の後ろを軽やかな足音だけを立てて、不可視の獣が足跡を雪につけながら追いかける。そして、少し離れて癖の強い長めの赤毛にコート姿の青年が、ゆっくりと登っていく。  白銀の大地は想像よりも硬く、登る山の傾斜は普段彼が歩むところよりも随分と急であった。あたりには氷樹が生い茂り影を作るが、木漏れ日が煌めき時折眩しさに目がくらんだ。  前をゆく彼らほど体力がない青年は、幾度目かの小休憩を挟むことにする。あたりをぐるりと見渡した。  氷でできた木々であるはずなのに、見ていれば青々とした葉を茂らせた木々と同じような、どこか柔らかな印象を抱く。  とはいえ、四方どちらを見ても同じような景色ばかりが続いている。前を進む先導がいなければ、とうに道に迷っていたことだろう。  青年の回復を待って、少女は再び先へ向かう。目的の町はもうすぐだ、と告げる。  その言葉の通り程なくして、青年の視界が開けた先には凍りついた湖が姿を現した。湖の畔に立ち覗き込めば、氷湖の底には大小の家々が連なる「町」があった。  どこか少し誇らしげに、凛とした声がかかる。 「ようこそ、『聖域』の内側、私たちの冬の都へ」
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