5 地雷系祓い屋と感知系ホスト

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* その後。 後処理があったらしいゆりあは忙しそうにしていた――俺は式神で潜伏している妖の居場所を教えた――が、一段落したあたりで【AGELESS】を訪れた。 「つっかれた〜! もう最悪ぅ! ほとんど徹夜で働かされたんだよぉ!」 「あー……大変だったな」 「なお最悪だったのが大体強いヤツばっかだったこと! も〜〜〜! れいぴ癒して〜!」 「よしよし」 「えへへへぇ♡」  腕にしがみついてくるゆりあの頭を撫でてやる。  ……接客時にはいつもやっているようなことだが、なんだか以前とは俺の心持ちのようなものが違うような気がするのは何故だろう。 「でも本当にれいぴ、大活躍だったね♡ ゆりあの目に狂いはなかった! さすがはれいぴ♡」 「俺としては近くにそれなりの数の化け物がいたことに戦慄したけどな……」  蝶たち(式神)に探らせたところ、人皮を使って潜伏していた妖は想像以上に多かった。  その時の「ウェッ……」という気持ちを思い出し、俺は深くため息をつく。  俺が生み出した蝶は、蝶を中心として霊力を僅かに広げて、感知を行う。そして対象に触れることで、詳細な、かつ必要な情報を俺に伝える。  肩に、腕に、足に一瞬、止まる。それだけで、妖なのか、人間なのか、霊能者なのか、どんな力を持っていて、どのくらい強いのか――丸裸にできる。おまけに一匹一匹が激弱な代わりに数を多く出せる。 「でもれいぴ。なんで式神、蝶にしたの?」 「まあ、黒蝶かっこいいし。あとはなんか、夜職って夜の蝶をイメージしないか? 一回思いついたらそれ以外考えつかなくなっちゃってさ」  どちらかと言うと夜の蝶というとキャバ嬢とかのイメージかもしれないが、夜の街の非日常と華やかさを司るという意味ならホストも同じだろう。   非日常と華やかさを司り、客を絡め取る。  ……あれ。そういう意味じゃあ本質は蜘蛛のような気もしてきたな?   「夜の蝶……。たしかに言われてみればそうかも。それに虫だと『弱いけど多くいる』イメージも湧きやすいし、合理的かもね〜」 「だよな」  まあなんでもいい。  ……とにかく、この()()()()()何かを成せたこと。  俺にとっては、それが大切なことだ。 (少しは……自分を受け入れられたのかもな)  ずっと逃げてきたことから向き合った。  何かが変わったかも、と自分でも思う。    ホストから式神のイメージを作り上げるなんて――俺は後ろ向きな気持ちでホストを続けているようで、なんだかんだホスト業が好きなのかもしれない。 「何にせよ、ありがとね、れいぴ」  「!」  「ほんと、助かった! さすがはゆりあの最推し♡」   笑顔。  含むところも何もないその明るい笑顔に、俺は一瞬、息を詰めた。心臓が跳ねる。   自分の動揺を自覚しながら、俺はいつもの「キマッてる」笑顔を返して、ン、と頷く。  ……そうだ、これだ。  自分の一番変わった部分。    今まで俺はゆりあにどう思われようと、客としての彼女が自分から離れなければどうでもいいと思っていた。けれども今は、なぜか()()()という言葉に引っかかりを感じるようになってしまったし、  何より……認めたくないが、俺はいつの間にか、 「ねえ、れいぴ! やっぱり正式にゆりあの助手になってくれる気、ない!?」 「……そーだなー……」    ――ゆりあの役に立ちたいと。  そう思うようになってしまっていた。   「しょーがないな、いいよ。ゆりあは俺の大切な姫だしな」  今はこういう言い方しかできないし、客とホストとしての関係を崩す勇気もない。あくまで俺たちは金で繋がった関係でしかなく、ゆりあにとっても俺はただの『推し』でしかない。  ただ彼女の助手になるならば、ゆりあの唯一の右腕は、俺ということになる。   今はまあ、それで妥協しておく。    「ほんと〜〜!!? れいぴ! 大好き!!」 「いって! 力強いな!」    ……でもまあ、本当に俺もバカだよな。  ハマらせるのがホストだってのに、逆に手のひらの上に乗ってどうするんだよって感じだ。  とはいえ。  前の自分より今の自分の方が、俺は気に入っている。  だからまあ、これでいい。
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