敵国の推し

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名前、田中藤間(たなかとうま)。職業、ホスト。もう直ぐアラサー、独身、家族なし、腐男子でゲイ。趣味は猫とイケメン鑑賞。可愛い男と遊ぶこと。将来の夢は適当な年齢でひっそり人生を終えること。 「へぇ、最近はBLのソシャゲもあるのか」 好みの男と出会えなくて、一時的な孤独を埋めるため、面白いゲームがないかとネットを漁っているとサービス開始直後のBLゲームを発見した。 タイトルは【蝶々リウム】スマホの画面に映る爽やかなイケメン達。こういうものがあるのかと初めて見るソシャゲのBLゲームに衝撃を受けた。 ゲームの中でなら気軽に恋愛を疑似体験できるだろうとノリで始めたはずだった。 一年後 「ヴィクたんピックアップだと!?」 俺は廃課金勢になっていた。 すっかりキモオタと化した俺の部屋は推しのグッズで埋め尽くされている。SNSを開くと、公式様から新イベント告知がされており、我が最推しであるヴィクター、通称ヴィクたんの新衣装が公開されていた。 「はぁ〜毎回ビジュ神だわ」 絶対欲しい。完凸して、スチルを回収しなければ。 ヴィクター・アイスバーグ、長髪の銀髪に眼鏡を掛けたいかにも知的なイケメン。だがしかし、実は剣技と魔術を極めた魔法剣士と言う設定だ。 典型的なツンデレ美人でありながら、ゴリゴリの武闘派ってギャップ萌えすぎるだろ!なにより俺の大好きな美尻の持ち主! 「イベント楽しみだな」 ヴィクターに出会ってから、無気力だった日々に活力が湧いてきた。推し活のために、以前より仕事を頑張るようになったし、楽しめるようになった。 「トーマさん」 「えッ」 イベント当日、その日は仕事を終え、早めにあがらせてもらった。アパートに帰ると、最近自分目当てによく店に来る子が立っていた。 まずいと直感した。もともと自分は熱心に仕事をしていなかったし、そこそこの売り上げしか出さないホストだ。こんな待ち伏せをする客は今までにいなかった。だから、セキュリティなんて皆無のアパートに住めていたのに… 「えーっと、何の用?」 「トーマさん、トーマさんは……男が好きなんですか?」 「えッ」 何故バレたのか。動揺した。自分はゲイであることを公表していないし、私生活で男と遊ぶ時は知り合いと会わないように気をつけていた。おそらくずっとストーキングされていたのだろう。 そこからは記憶が曖昧だが、結果的に客と揉めたホストが刺されて死んだ……と言うよくある話だ。翌日にはニュースになったかもしれない。ひっそりと死ぬはずが真逆の結末になってしまった。
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