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転生先は推しの敵
「……でんか……殿下、レイドルフ殿下、お目覚めの時間です」
「んぁ……ふぁぁ」
大欠伸をしながら広いベッドで眠っていた長身の男が上体を起こした。グレーの長髪に褐色の肌。身体は鍛え抜かれており、人離れした整った容貌を持っている。
カーテンが開かれると外は常闇が広がっていた。
「おはようございます。本日も良い夜でございます、殿下」
「ああ…」
伸びをしながら俺は目の前の男に曖昧な返事をする。
レイドルフ・ナイトウォーカー、人ならざる者達が住む魔界を束ねる魔王。グレーの長髪に小麦色の肌、紫色の瞳を持つワイルド系のイケメン……と言う設定だったはずだ。
俺は生前ハマっていたBLソシャゲ……【蝶々リウム】のキャラクターレイドルフに生まれ変わったらしい。最初は死ぬほど喜んだ。だってこの世界には我が最推しヴィクたんがいる。しかしレイドルフのいる魔界とヴィクターのいる人間界は対立関係にある。つまり俺はヴィクたんから見れば敵国の親玉ということになるのだ。しかも、レイドルフは見た目は人間の青年だが、種族は人狼。ストーリーに出てきた時レイドルフは100歳を超えていた。物語が始まるのは100年後であり、現在の俺は次期魔王の王太子殿下という事になる。
「はぁ、あと50年か…」
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもねぇ」
レイドルフの側近であるダリが和かに尋ねた。半裸で寝ていた俺が寒くないようにガウンをかけてくれる。優しい
ダリス・ブラックウッド。黒いサラサラとした髪、真紅の瞳を持つイケメン。言わずもがな、こいつもレイドルフの世話役として登場するメインキャラクターだ。ダリは大蛇の一族で肌にうっすらと鱗が見える。あと、怒ると怖い
「ダリ、腹減った」
「朝食を用意しております」
ダリと寝室を出ると朝食が用意されており、侍女達も控えていた。
「おはようございます、殿下」
皆が揃って頭を下げる。最初は戸惑ったが、流石に50年も経つとこの対応にも慣れた。
「はよう。ダリ以外全員下がれ」
「かしこまりました」
侍女達を見送ると、ダリが引いた椅子にどかっと座った。
「今朝は少し肌寒かったので季節のきのこのパイシチュー、茹で鳥と温野菜のサラダ」
「おー、いいじゃねぇか。パイシチュー」
「それから新鮮な怪鳥サンドです」
「途中まで普通だったのに…」
「はい?」
「いや、美味そうだ」
「ふふふっ。殿下のためにこだわって作りましたから」
ダリは胸を張る。別に怪鳥は嫌いじゃない。むしろ意外と美味いので好きだ。人狼になったせいか肉は生前よりも大好きになっている。
「本日のご予定ですが、午前から会議がございます。その後、殿下が以前からご希望されていた例の孤児院の視察が入っております。その後は通常公務が」
「ああ、わかった」
朝食を食べながら今日の予定を把握する。魔界の王族はやる事が山積みだ。
魔界と呼ばれるこの世界は秩序というものがないに等しい世界だった。簡単にいうと皆が世紀末のような思考をしており、無法地帯と言っても過言ではない。そこに魔王が誕生し、ある程度の秩序が築かれたのだが…
現王である俺の父は魔族の中でも飛び抜けやばい奴だった。あれは確か10歳の頃…
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