9 プルメリアと未来

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 **  一日目の夕食はホテルのディナーを予約していた。  白を基調とした店内は天井が高く開放感があり、まるでお城にいる気分になる。  このレストランで楽しみにしていたのは料理だけではない。大きな窓からは海が見えて、夕方の贅沢マジックアワーを楽しむことができる。 「本当にすごい……」  水平線に夕日が沈んでいく。美しく燃えるオレンジがピンクや紫にとけていき魔法を見ているようだ。  その魔法は一瞬で終わってしまったけれど、素敵な料理が運ばれてくるから幸せな気分は続いていく。 「やっぱり先輩は食べてるときが一番幸せそうですね」 「今のは景色に感動してたんだからね……!」 「こうやってゆっくり食べるのも久しぶりですね」 「本当に……」  現実を思い出すとため息がこぼれそうになる。  私の環境は大きく変わった。四月から、私は和泉の古巣であるゲームコンテンツ事業部の営業部への異動となったからだ。しかも営業チームのリーダーへの昇進も同時に。  入社以来ずっと同じ部署にいたから慣れない業務と、初めての管理職。新人なのにリーダーという重責にぶち当たっている。  休日も自社や他社のゲームアプリを学ぶことに必死で、あまり時間を作ることができずにいた。  この数日はゲームもログインボーナスをもらうだけにしておこうと決めている。  和泉はデジカメに料理の写真を丁寧におさめている。  和泉は異動なく、メディアコンテンツ事業部のままだから次は沖縄の記事を作成するらしい。  ……和泉との時間も減った。同じ事業部にいたころは、お互い外出していることも多かったけど、それでも隣の席というのは大きい。  ああ疲れたなと思って目が合うと「グミ食べますか」と笑顔を向けてもらえる。それは私にとっての癒やしだったのだと今更ながら思うと。  もうひとつき立つのに未だに隣に和泉がいないことに慣れない。  私だけでなく和泉も四月は忙しそうだった。お互いの帰宅時間も遅くなるとなかなか話をする機会もない。  だから、嬉しい。こうして和泉とゆったりと時間を過ごしているのが。  豪華だけど繊細な食事は嬉しくて美味しいけど、和泉と「おいしいね」と言い合えることが何よりも嬉しい。全部が特別に思える。  約束通り、夕食後にバルコニーでお酒を飲むのも嬉しかったし、爽やかで白いバスタブに二人で入るのも。その後、清潔なシーツの中でキスを続けるのも。
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