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花がら摘み②
「はいっ、バレンタインチョコ」
冬馬に片想いしてから12回目のバレンタインを迎え、美咲は12個目のチョコを冬馬に差し出す。
「ちゃんと本命だからね」
子供の頃は手作りのチョコを作れず、市販のものを渡していた。だが、小学校高学年頃から美咲は手作りのチョコに挑戦するようになり、今ではすっかり手馴れたものだ。
「はいはい、チョコ貰えない俺に期待持たせてくれてありがとな」
「だから義理じゃないってば!」
素っ気ない返事をしながら、冬馬はチョコを受け取ってカバンにしまう。彼は「昼休みにでも食べるわ」と満更でもなさそうに言うのだった。
冬馬は、チョコを渡すたびに毎回義理チョコだと思っているようで、美咲がいくら「本命だ」と言っても聞き流すだけだ。
(本当に、本命なのにな)
***
昼休み、美咲は冬馬からチョコの感想を聞くために彼の教室へ向かう。
しかし、冬馬の席には肝心の彼がいない。
「あの、冬馬どこ行ったか知ってる?」
美咲は、入り口付近の席に座っている女子生徒に尋ねる。彼女は教室内をキョロキョロ見回した後、冬馬と親しいらしい男子生徒に話しかけた。二言ほど会話をして、彼女は席に戻って来ると「外に行ったって」と言った。
(チョコ食べるとこ、人に見られたくないんだ。かわいいなぁ、もう)
美咲は女子生徒に「ありがとう」と礼を言い、ひとまず靴を履き替える為に昇降口へ向かう。
靴を履き替えて外に出ると、昇降口の外に出てすぐ左にある“校歌の石碑”のところに、人陰が見えた。
(誰だろ)
そちらに行くのも気まずく、何となく聞き耳を立ててはいけない空気を察知して、美咲は反対側へ足を向けた。その時、
「冬馬くん、好きです。私と付き合ってください」
聞こえてきた冬馬の名前に、美咲は足を止める。冬馬が告白される現場に遭遇してしまったと、気まずさを覚えた。
(断る、よね…?)
不安感が押し寄せる。毎日、冬馬に話しかけて、数日に一度は気持ちを伝えてきた。気持ちは十分伝わっているはずだ。それなのに、言い知れぬ不安で胸が押しつぶされそうだった。
「俺、面白みないしかっこよくないよ?彼女いたことないし、それでもいいの?」
「うん。そういうところも含めて、冬馬くんのことが好き」
「…ありがとう。俺でよければ、付き合おう」
冬馬の返事を聞いた瞬間、美咲の目の前が真っ暗になった。
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