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日本クラシック音楽コンクール全国から約5ヶ月後 松宮光は入学したての高校での彼女のために開かれる演奏会の練習に追われていた。 もうオーボエは辞めた、演る気はないと何度も何度も言ったのに。 全国に行ったオーボエ吹きの演奏を是非とも聞かせて欲しいと校長に散々ごねられ、結局折れてしまって今に至る。 「あのズラ校長め……。」 相変わらずしかめっ面で、自宅の防音室に向かう。 周りには、仕方がないことだったとかリードが割れてなければ絶対1位だったよとか色々言われていたが当の彼女は周りの意見なんて全く聞いてなくて、母のことばかりを気にしていた。 「あら、光ちゃん。やっとオーボエ吹く気になったの?」 「おばあさま。…学校で私のコンサートを行うとのことでして。」 「まあ。とても光栄なことね。お母さまもきっと喜びますよ。それまで一生懸命練習しなさい。」 「はい。勿論です。」 そんな気など一切無かった。 "あの日”割れたリードがそのまま、ケースの中に入っていて裂け目をそっと撫でる。 「こんなの…ほんとゴミでしかない」 リードの値段とかの重みは痛いくらいわかってるけど、こんなに割れてたらどうせ練習でも使えないからと先端を机に押し付けゴミ箱に投げる。 まあ、恥をかかない程度にやるかと心に決めたのであった。
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