第18話

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第18話

触れ合うだけの口付けをして、リリアとシグルドは幸せな気持ちで抱きしめ合った。お互いの温もりを分け合うように。                                                              「リリア、今日は一緒に眠ってもいい?」                                                            シグルドは甘えるように聞く。リリアはそんなシグルドを拒否できずに頷いた。                                          二人はベッドに横たわり、手を繋いでおでこをくっつけあった。                                                       (子供の頃に戻ったみたい)                                                                     子供の頃、仲良しのお友達とよくこうやって眠ったのだ。シグルドは眠そうにうとうとしていたから、リリアは子守唄を歌う。                                                               「月がのぼってほしが煌めき遊びの時間はちょっとだけお休み。明日もきっと楽しい一日。さあ坊やねんねこねんね、ねんねこねんね」                                                              リリアが歌うとシグルドは穏やかな寝息をたてはじめた。リリアは子供のように無垢なシグルドの寝顔を見てまた涙が溢れる。世界は彼には厳しすぎるのだ。どうすれば彼の重責を軽くしてあげられるのかわからず、リリアはただ涙した。                                                      (なんだか私も眠くなってきた・・・今日はもう眠りましょう)                                                       そうしてリリアもシグルドと一緒に朝までぐっすり眠ったのだった。                                                        翌朝、リリアが目覚めると、シグルドはまだ眠ったまま。握った手はそのままで、おでこを突き合わせて静かに寝息をたてている。                                                           (よほどお疲れなのね。少し恥ずかしいけど、シグルド様がお目覚めになるまでこうしていよう)                                                                             そう思うとリリアはシグルドを見つめた。サラサラした赤毛にあどけない寝顔。この方が冷血と呼ばれているなんて信じられない。                                                               「うう、ん」                                                                           シグルドが目を覚ましてリリアを見て微笑んだ。リリアはシグルドの子供のような笑顔にドキッとする。                                                                             「おはようリリア。昨日はよく眠れた?」                                                                シグルドはまだ眠そうな声でリリアに問いかける。                                                           「はい・・・シグルド様がそばにいてくださったからぐっすりと眠れました」                                                           リリアは微笑んでそう答えた。                                                                       するとシグルドはまた触れるだけの口付けをしてリリアをギュッと抱きしめた。                                                    「幸せだ・・・。私は幸せとは無縁で一人で朽ち果てると思っていたのに、目が覚めると横に天使がいる。なんていう幸せなんだろう。私は夢を見ているのかな」                                              シグルドが少し不安そうに言うため、これは夢ではないと祈り込めてリリアからシグルドに口付けた。                                                                             「夢・・・、じゃないんだね。ああ。幸せだ」                                                                シグルドはうっとりとリリアを見つめてさらに強く抱きしめて言った。                                                            「私は朝は強い方なんだけど、リリアと一緒だとダメだね。全然起きる気にならないよ」                                                                                    「でも、もう起きる時間ですよ。執務室に行かないとルカが乗り込んできて、この姿を見られてしまうかも」                                                                             それを聞くとシグルドは急にキリッとした顔になり、慌ててベットから降りる。                                                    「リリアのその姿を見られるなんてダメだ。今すぐ着替えて・・・いや、私がいると着替えられないね。私はすぐ退散するからすぐに着替えるんだよ。約束だからね」                                                                                            そう言うとシグルドは慌てて部屋から出ようとしたが、くるりと戻ってくると、リリアのおでこにキスをした。                                                                          「今日一日頑張れるように・・・」                                                                     シグルドはそう言うと、ふわりと微笑んで今度こそ本当に部屋から出ていった。                                                   (シグルド様とキスをした。一緒に眠って、手を繋いで、まるで夢みたい。すごく心が満たされていて幸せだわ)                                                                   リリアは昨晩のことと、今朝のことを思い出して赤面したが、心はポカポカと暖かかった。                                                                                                ベルを鳴らしてチェルシーを呼ぶと、彼女はいつも以上に上機嫌で部屋に入ってきた。                                                                                 「お嬢様、シグルド様と無事初夜をむかえられたこと、おめでとうございます。シグルド様は恋愛には淡白な方なのかと思っていましたが、意外と情熱的なのですね」                                                                            (チェルシーは昨晩のことを誤解しているのね。確かに一緒に眠ったけど、何もなかった。手を繋いで子供のように眠っただけなのに。どう説明したらいいかしら)                                                    リリアが思案していると、チェルシーは表情を曇らせて                    「リリア様、まさか・・・まさかとは思いますが、昨晩はお二人で子供のように眠ったなんて仰りませんよね?」                                                                            (チェルシー!なんて鋭いの!こんなのじゃ隠し事一つもできないわ)                                                          リリアは観念してコクリと頷いた。                                                                          チェルシーは天を仰いで眉間を指で押さえながらため息をついた。                                                        「なんてこと・・・。本来でしたら私の立場上、このようなことを申し上げるべきではございませんが、初夜の花嫁を放ったらかしにして眠ってしまうなんて、子供じゃあるまいし、リリア様にも失礼ですわ」                                                                   「チェルシー、シグルド様に対して怒らないであげて。色んなお考えをお持ちだから私にも簡単には手を出したくないみたいで・・・。それに昨日はとても疲れていたから私も一緒に眠ってしまったのよ。だから同罪ね」                                                         リリアがそう答えると、チェルシーはやれやれといった様子でリリアの今日のドレスを選び始めた。                                                                            その後ろ姿を眺めながらリリアは想いに耽る。                                                                  (シグルド様はこれからも心を傷つけながらも辛い決断をしていくのだわ。そんな時、私にできることはきっと、シグルド様のお側にいてさしあげること。そのためには、皆に認めてもらえるような立派な妃になる)                                                                 そう考えながら身支度を整えた。 普段忙しいシグルドだが、朝食と夕食はどんなに忙しくてもリリアに同席してくれる。侍従のルカが二人の時間を作るために、必死にスケジュールを調整してくれているのだ。 今朝もそのおかげでリリアはシグルドと楽しく朝食をとっていた。 「シグルド様、今日からいよいよ妃修行が始まるのです。緊張しますけど、シグルド様のお役にたてるようになるためにも頑張ります!」                                                                     「そうか」                                                                                   ”リリアは本当に優しいね。僕のために頑張ってくれるなんて。その言葉を聞けたから僕も一日頑張れるよ”                                              「カタリナ様、どんなお方なのかしら。仲良くできたらいいのですけど、シグルド様どう思いますか?」                                                                     「問題ない」                                                                                   ”カタリナはさっぱりした性格だからきっとリリアと仲良くなれるよ!心配しないで”                                           リリアとシグルドの会話は、はたから見ると一生懸命喋る私をシグルド様が冷たくあしらっているように見えるだろう。側に控えているメイドや従者たちからは緊迫した雰囲気が伝わってくる。                                                                     (周りの反応なんて気にしなければいいんだわ。シグルド様は私を愛してくださっているんだもの)                                                                                 リリアはそう思うと美味しく楽しい朝食の時間を楽しんだのだった。
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