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 ゴーグルに吹きつける雪を払い、リフトを降りる。  無線に繋いだイヤホンから、健治(けんじ)先輩の声が響いた。 『遭難者は一名。ええっと……じゅりお? なんだこりゃ。じゅりお・なんちゃら。名字が読めん』 「はぁ、どこの人ですかね、」  もう何年もこの仕事をしているが、私の勤め先のスキー場では毎年のように遭難事故があった。パトロールとして採用されたときは『落とし物を拾う程度だ』と言われていたのだが――こうして時折、人助けに駆り出される。    神聖な職務だと思う一方でいい迷惑だと思うこともあった。ときに金のために自分の生命を犠牲にしていると感じることすらある。  ただ、別に惜しくはなかった。  私には家族も友人もいないし、人付き合いも好きではない。  長年職務を共にする健治先輩すら、私に対してはどこかよそよそしいくらいだ。  こんな私を、誰が惜しむのだろう。  無線にくくった値付けの鈴がりん、と鳴る。  健治先輩は舌打ちに続けて言った。 『どうせまたバックカントリーだろうな。まったく懲りねえな。まああっちの方は救助隊に頼むし、善多(ぜんた)はとりあえずCコースの閉鎖区域から探してくれ。俺はFに行く』 「了解しました。今C5まで来たので、これから降りながら探してみます。」 『用心しろ。雪が痛くてかなわん』  私はいつものように、閉鎖区域の近辺に異常がないか一つ一つチェックしていった。  ひどい吹雪で視界が悪い。  はやく〈じゅりお〉とやらを見つけるか、見切りをつけて帰還しなければならない。  しばらく捜索していると、いよいよ天候は悪くなり、再び健治先輩から無線が入った。 『善多、撤収だ! 聞こえるか? 一時撤収! 荒れすぎてこれ以上は無理だ。早く戻れ!』  これで終わりか、そう安堵したとき、  雪と雲で暗くなっている斜面にオレンジ色の何かを見た。  一瞬ためらい、無線をとる。 「先輩、人かもしれません」  そう叫んだあたりで記憶は途切れている。
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