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母親に怒られていじけたような表情をさせながら昭の語尾がだんだんと小さくなっていく。昭のその姿に幸乃は深いため息を吐く。
「はあ~、話にならないわね。さちさんを迎え入れるまで何年あったと思っているのよ……それまで私は地道に努力していまのこの体力を手に入れたのよ。そしてついに努力が実った……それと昭の意気地なさを同じにしないで、と言いたいところだけれど、似た体質の昭の気持ちもわかるし、そこには私には分からない、比べてはいけないほどの苦しいものがあるのかもしれない……けれど!! ここは譲れないわ、邪魔しないでよ」
さちは理解できないながらにもふたりの会話に耳を傾ける。
幸乃は両手がふさがっているためかしっしっとあしらうように顔を左右に動かして、昭に顔を背ける。
最終的にふたりの会話からして昭の差し出された手はさちを抱えるのを代わるということで、幸乃とはその話で口論していることだけはさちは感じ取れた。しかし、幸乃に抱えられているこの体制もさすがに恥ずかしくなってきたさちは、おずおずと固く閉じられていた口を開く。
「あ……私、自分で歩けます」
そう言葉にするとばっとふたりの視線がさちに向き、ふたりは釣り上げていた眉を下げて幸乃はさちを下ろす。
「そ、そうですよね……申し訳ありません」
「ごめんね、さちさん」
反省したようにうなだれるふたり。すこし静寂に包まれたところで屋敷の曲がり角の奥から、カツッとした音が響いてくる。その音はさちたちの方へと近付いてきて小さな影とともに誰かが顔を覗かせる。
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