26.あなたが好きなのは

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26.あなたが好きなのは

私は高原の話にじっと耳を傾けていたが、ここではじめてそっと言葉を挟んだ。 「あの……本当に、楡の木にはよく来ていたんですか?私、今まであなたに会ったという記憶がないんです。でも高原さんは、私をアルバイト時代から知っているような口ぶりですよね。いったい、いつ会ったんでしょう……」 「記憶にないのは仕方ないと思う。俺が店に行っていたのは、だいたいが平日だったし。君はどうなんだ?やめてからも、頻繁に行ってたのか?」 「私も、あまり行ってなかったですね……」 一人では来るなと言われてからは、年に何回か程度だった。高原とは、タイミングが合わなかったということか……。 「それなら、いつ?」 当時のことを思い出しているのか、高原は宙を見るように少し顔を上げた。 「あの週末は、本当に気まぐれに足を運んだんだ。それもだいぶしばらくぶりにね。店は相変わらず賑わっていたけど、あの日は一つだけカウンター席が空いていた。そこで一人で飲んでいたんだけど……」 そこで言葉を切ると、ちらと私を見た。 「女の子が一人で入ってきた。見るからに学生で、それが一人で飲みに来たのかと驚いて見ていたら、バイトの子だったんだよな。そのことは、後でマスターに聞いて知ったんだけどね」 「それが、私だったと?」 高原は頷くと、再び前を向いて話を続けた。 「初めは全くなんの気もなく、ただ眺めていただけだった。だけど、君の生き生きとした表情や屈託のない笑顔に、気がついたら目が釘付けになってた」 「でもそんなの、仕事で行ってたわけだから、当然のことで……」 「君にとっては、そうだったのかもしれない。だけどあの時の俺は、そんな君に気持ちを持ってかれてしまってた」 私はふっと小さく笑う。 「きっとそれはお酒が入っていたからです。高原さんの気の迷いだったに過ぎません」 「俺はあの頃、色んなことに嫌気がさしていた時期でさ。そんなだったから、余計に君の笑顔に惹かれたんだろう」
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