第六章 僕たちは恋じゃない

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繋いだ手が少し揺れて、陽一がそっと口を開いた。 「ここらへんって日本の中心なんだけどさ、この時間はいつもこんな感じで、だーれも居ないんだよね」 日本の中心、という言葉が引っかかったが、ツッコむ前に陽一が僕の顔を覗き込んだ。 「こんなん、路チューし放題じゃんね?」 「路……やめとけ阿呆!」 路上駐車、と素直に変換してしまって、危うく口に出すところだった。 真意に気付いて慌てて声を張ったが、陽一は楽しげに笑うだけ。 なんや、からかっただけか。少し残念がる自分が居た事はひた隠しにして、僕も繋いだ手を揺らした。 「日本の中心、てなに?」 「ん? それはこのまま進めばわかる」 得意げな陽一の横顔を、目でなぞる。 本当に隣にいるよな? と謎の確認をしてしまう。 時間帯のせいだろうか、それとも、繋いだ手の感覚が緊張で薄いせいか。 さっきからずっと、僕の隣にいる陽一が幻なんじゃないかって気がしている。 そして本物の陽一が少しずつ僕から離れていくような、そんな感覚がやけにまとわりつく。 「……わざわざ会いに来たって事は、返事しに来たんだろ?」 唐突に陽一が核心を突いた。 僕は軋んだ心臓を一呼吸でいなして、小さく「うん」と絞り出す。 ずっと、ずっと考えていた。 考えていない時も心の真ん中にいつもあった。 陽一からもらった、暖かくて優しくて愛おしい言葉。気持ち。感情。 叶うなら、このまま僕一人で抱きしめていたかった。それが何よりも心地よくて、嬉しくて、手放したくなかった。 だからここまで引っ張ってしまった。
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