俺のご主人様

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俺のご主人様

 俺のご主人様は、今日も平気で俺の目の前であんな蕩けるような顔を見せる…。  あぁ、アイツ…また今日も来た。  ガチャガチャと外で乱暴に玄関の鍵の開く音がして、いきなり開いた玄関の扉が勢いよくバタンと閉まると、ドスドスとフローリングのうえを歩く荒っぽい足音が近づいてくる。  俺はこの音が嫌い。  だってこの音がするとアイツが部屋に勝手に入ってきて。  また始まるから…。 「アオ、いるか?」ってね。ほらな。  その低い声が少しだけ威張りくさって俺の大好きなご主人様を呼ぶ。  いるに決まってる。だってここはご主人様のうちなんだから。俺とご主人様の幸せなおうち。そこにこうして勝手にズカズカ入ってきて…。 「あ、カケル…」  そう言って笑顔で迎え入れるご主人様も呑気なもんだけど。  振り返ったご主人様を見つけると、キッチンでお皿を洗ってるご主人様のそのそばに勢いよく近づき、そのままその勢いで後ろから強引に引き寄せ抱き締める。  アイツはそのまま背中越しに両手をご主人様のお腹に回し、首筋にキスをしながら抱え込むようにしてその愛おしい唇にも唇を近づける。  抱え込まれて身動きがとれなくなったご主人様はお皿とスポンジを持ってる泡だらけの手首をぐいっと掴まれ、水道から流れてる水にざっと打たれたその細い手はすぐにアイツの手の中に捕まる。 「そんなの後にしろよ…」  あいつの低い声がまた偉そうに耳元で囁いて。  水道の蛇口を閉めエプロンの前で手を拭こうとするご主人様の腕ごと後ろから乱暴に抱き締め、くるっと自分のほうに向かせて、アイツは横からその耳に貪りつく。啄むようにだんだん唇に近づきご主人様の唇を抉じ開けその綺麗な舌にしゃぶりつく。  いつも下品なほどにがっついてる。  ほんと乱暴極まりないし優しさの欠片もない。  だけど。  ご主人様はいつも黙ってじっとして、されるがままだ。  それどころか次第にあんなうっとりした目でアイツを見つめて。  アイツに抱えられるようにしてベットに連れられていく…。  ご主人様はアイツにキスをされながら段々脱がされていくのを待ってる日もあるし、待ちきれないのか自分からボタンをはずして脱いだりもする。  アイツはだいたい、急いで自分から雑に脱ぎ捨てて、ベットまでの道のりをそこらじゅう脱いだ服で散らかし放題だ。  二人のあんな声が聞こえてくると俺はシュンとなって床に腹をつけて寝そべり、前足を前に投げ出し…  ふて寝する。  俺だってあんな風にしてみたい。  俺の大好きなご主人様があんな風に気持ち良さそうな顔すること。  俺だって。あんな顔にさせてやりたい。  ご主人様のあの平らな胸は俺がいつも飛び付いてだっこして貰う俺の神聖なゾーンなのに。アイツの乱暴な手や顔が這いずり回り、そこがけがされていく。  だけどさ…。  ご主人様は、本当に好きなのかな。  アイツのこと…。  時々そうじゃないような気がして仕方ない。  何でかって?そんなのわからない。   なんとなく、なんとなくだ。  そう思う。  ご主人様のことは…  俺だって好きなのに。  俺の方が好きなのに。  俺の方がもっと…。  好きなのに…。  そばで尻尾を丸めながら、二人の情事を見てはいけないと思いつつ。  つい気になってチラリと上目遣いに目をやる。  今日も二人はいつもみたいにベットの上で重なりあって。揺れあって。そのうち激しくなって、果てる。  あー。早く終わって欲しい。  あの、アイツのごつい身体が俺の大好きなご主人様の綺麗な体の上に跨がって。  あんな風に壊れそうなほど俺の大事なご主人様の体を揺らす。  あらあら。  ご主人様も、あんな声出しちゃってさ。  俺にもちゃんと聞こえちゃってる…。いつも俺にかけてくる優しい声とは全然違う。  あんなに苦しそうな、だけどあんなに色っぽい声で。  俺のご主人様は今日もアイツの腕の中で喘ぐ。  その時の顔なんか、いつも俺を見つめてくる優しい瞳とは全然違うんだ。
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