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「生きている人と死んでいる人は、世界が違うの。いつまでも、パパをこの世に引き留めておくことはできないの。紗那。人は死んでしまったら、お別れしなくちゃいけないの。それを紗那には知ってほしい」
まるで、自分に言い聞かせているみたいだ。
「紗那。美沙。愛しているよ。ずっと一緒にいられたらよかった。だけど、もうお別れの時間だ」
「いやだよ! 待って。行かないでよ!」
「美沙。苦労させてしまうけど、俺の分まで、紗那のことを頼んだよ」
「うん」
ああ、本当に消えてしまう。
私がお願いしたことなのに、もう後悔してしまいそう。
「紗那。美沙。いつか、また」
そう言って、彼は消えた。
泣きじゃくる紗那を抱き締め、私も涙を止めることができない。
人の死がどういうものかを娘に教えるため、私は愛する夫を消してしまった。
終
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