先生の背中

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十二月下旬。 クリスマスを控えたこの町は、明け方からしん しんと雪が降り積注いでいる。 今朝の天気予報では、夜にかけて雪が積もり ホワイトクリスマスになるだろうとキャスターが 告げていた。 灰色の雲から止めどなく降り注ぐ綿雪はアス ファルトに溶け、若しくは散歩中の犬や歩く人の肩に吹き付け容赦無く体温を奪いうつむき歩く 人々の足を急かしている。 十二時に待ち合わせている友人は、まだ来そう にない。その証拠に、先程から五分おきに電車の遅延を謝罪するアナウンスが放送されている。 痴漢や窃盗防止を訴えるポスターの貼られた コンクリート壁とトタン屋根の下で雪を凌いで いる私は、退屈を持て余し有線イヤホンから 流れるポッドキャストに耳を傾けながら 視界を闊歩する人の群れを回遊魚に脳内変換 する作業を行った。
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