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7. 異界
(ワタシヲコロサナイデ──)
(ヤメロヤメロヤメロ──)
(エイトクン、ハルエダヨ、サガサナイデ──)
(キャハハハハハハハハ──)
(デテイケ、デテイケ──)
月明りの下、奥へ奥へと進むにつれて、幻聴なのか本当に聞こえているのか、耳元で誰かが話しかけ、笑いかけてきた。
それは春江姉ちゃんの声にも聞こえるし、あの女の子の声にも、あるいは聴いたことのない野太い男の声にも聞こえた。それらが頭の中で響いておかしくなりそうだ。
その合間にも、雪の中から爛れ腐りかけた手や足が突き出てきて僕の行く手を阻む。
「やめろ──!」
僕は大声で叫ぶ。
雪は嘘みたいに深くなっていく。こんなに降ったわけないのに、僕は腰までの新雪に埋もれている。それでもなんとか進んでいくと、やがて少し先に一本の木が見えた。
月明りにその木の枝に何かがぶら下がり揺れているのが見えた。
(あれは……)
僕は雪を掻き分けて、その木の元に急いだ。
僕は木の枝にぶら下がっていたものをそっと手に取った。それは昔僕があの子にあげた組み紐だった。
はっとして僕は木の周囲をぐるりと歩いてみた。
「あった!」
思わず声を上げた。
木の根っこと根っこの間に隠すように、小さな雪だるま、いや雪仏が供えられていた。
僕は手にしていたスコップで雪仏を優しく叩いて潰した。溶け始めていたからか、すぐに雪仏は崩れ形をなくした。
僕は父の元に戻り、雪仏を見つけて壊したことを伝えた。
「そうか。ありがとう。よくやった」
僕は父に肩を貸し、雪の上の足跡を逆に辿って仏ノ原から外へ出た。
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