お泊り

1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ

お泊り

 洗濯した航太の服をハンガーにかけて、カーテンレールで干す。  外は嵐だから、家の中で乾かすしかない。  エアコンの温風を使って……。  一晩じゃ乾きそうにないな。  風呂から出てきた航太に、俺の持っているスエットを手渡す。 「ほら、これ。着ておけよ」 「あ、うん」  当然と言えば、当然のことなのだが。  俺たちは男同士だから、恥ずかしがる素振りなど見せない。  ずっとタオルで頭をごしごしと拭いている。  どうしても、視線が彼の胸部に行きがちだ。  ピンク色の(つぼみ)へ、目が行ってしまいそう。  可愛い……と思う俺は、変態なのだろうか?   ※  『えぇ……現在、福岡市内には暴風、豪雨の警報が発表されております。外に出ることは極力、避けてください』  二人して肩を並べ、テレビの画面を眺める。  流れている映像は大きな川で、洪水を起こしていた。   「すごい雨だね、おっさん」 「ああ……」  着替え終わった航太とテレビを見ているが、どうも頭に入って来ない。  適当に相づちを打っているだけ。  それもそのはず。  彼の着ている、服装の刺激が強いからだ。  俺が渡したのは上下のスエットなのだが、トップスしか着ていない。  ボトムスはウエストが大きすぎて落ちてしまう、と返された。    おまけに、彼の下着はずぶ濡れだから、現在はカーテンレールにかけてある。  水色のカラーブリーフ。  つまり今の彼は、ノーパン。  一応、俺が持っているトランクスを渡してみたが、これも大きすぎて落ちてしまうそうだ。  体育座りをしながら、航太がリモコンを手に取る。  色々とチャンネルを変えるが、どこも同じような災害番組ばかり。   「はぁ~ つまんないなぁ」 「ところで航太。お前、綾さんに何も言わなくていいのか?」 「え、なんで?」 「だって……お隣りとは言え、一人息子のお前が、何時間も他人の家にいるなんてさ」 「なんだ、そんなことか。別に母ちゃんなら怒んないよ」  どこまでも放任主義なんだな。  なんだか、航太がかわいそうだ。 「ねぇ、おっさん」 「ん? どうした?」 「あのさ、今晩。泊めてくれない?」 「なっ!?」  驚く俺を無視して、首をかしげる航太。   「いいでしょ? 外は嵐だし……」  なんて、いっちょ前に上目遣いでおねだりしてきた。  さっさと帰そうと思ったのに。   ※  航太は俺からスマホを借りると、母親の綾さんに電話をかけていた。  どうやら二つ返事で、許可を得たようだ。  しかし本当にあの母親は、我が子に無関心なんだな。  今も隣りの部屋から、男との笑い声が聞こえてくるぐらい。  とりあえず、布団はひとつしか無いから、航太へ譲ることにした。  万が一……なんてことはないと思うが、間違いがあってはならない。 「航太、お前が布団を使え。俺は畳で寝られるから」  そう言うと、彼は顔を真っ赤にして怒り始める。 「なんでだよ! 一緒に寝ろよ!」 「いや……男二人がくっついて寝るなんて、気持ち悪いだろ?」 「良いじゃん! オレとおっさんは、と、友達だろ!?」 「う、う~ん。そうだけど……」  もう夜も遅いし、彼を興奮させてはいけないと思い。  言われた通り、シングル布団の中に二人して入ってみる。  思った以上に中は狭く、お互いの身体がぴったりとくっついてしまう。 「おやすみ、おっさん……」  と耳元で囁く航太。  ふと視線を右手にやると、嬉しそうに微笑む彼の横顔があった。  安心しきっている。  よっぽど、俺のことを信頼しているようだな。  ~10分後~ 「……」  全然、眠れない。  この布団へ誰かが入ることを、許したのは”あいつ”ぐらいだ。  数年ぶりに人肌を感じた相手が男とはな……。  でも、航太のやつ。  起きている時は、つんけんしているくせに。寝ている時はえらく甘えん坊だ。  今も俺の右腕に抱きついて、離さない。 「おっさん……オレと、ずっと一緒にいて」 「!?」  その言葉に耳を疑ったが、すぐに寝言だと判明した。  瞼を閉じているから。  しかし、こいつも色々と苦労しているんだろう。  友情に飢えているようだ。 「んん……」  うなされていると思ったら、次の瞬間。思わぬ行動に走る。  自身の右脚を、俺の腹の上にのせてきた。  膝をすりすりと、こすり付けてくる。 「くっ!」  堪えきれなくなった俺は、布団から飛び出す。 「はぁはぁ……どうかしている」  こんな幼い少年に興奮するなんて……。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!