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過去の夢(後悔)
「絶対にこの話、秘密にしてね」
一言そう告げたのは、目の前にいる自分より遥かに年上の女子高生。
自分は夢を見ていた。
それは、過去を映し出した夢だった。
僕がまだ小学生にも満たない年齢だった頃だ。
過去の僕と彼女は、河川敷の土手に座り込んでいた。
「うん。約束する」
人格がまだ形成しきれていない小さい僕は、純粋でそれでいて間抜けな表情で約束した。
僕のその答えに安心したのか、彼女は微笑んだ。
「実はね……私の──が──で──だから、どうしようもなくて──」
彼女が必死で何かを過去の僕に話しているが、過去の僕は理解できないみたいで、相変わらず間抜けな表情で彼女を見つめていた。
それを察したのか、途中で彼女は話を止めた。
「ごめんね。君に言っても仕方ないのに……本当に、ごめん」
彼女が過去の僕に対して謝罪する。
その謝罪を、過去の僕がどう受け取ったのかは分からない。
数分経ってから、過去の僕は彼女に言った。
「僕は、お姉ちゃんが正しいと思う」
今になって思えば、なんていい加減な答え方をしたんだろうとずっと後悔している。
もっといい言葉を、彼女に掛けられなかったのだろうか。
対して彼女は泣いてるような笑ってるような、どっちつかずな表情で答えた。
「……ありがと」
その一言で夢は途絶えた。
その日を境に、僕は彼女に出会うことができなくなった。
彼女がこの時話した内容は知らない。
……ただその内容を物語っているものは、確かに映し出されていた。
彼女の汚れた服装やあざだらけの足が、視界に映り込んでいたからだ──。
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